ぽつり、ぽつりと降りだした雨を見上げて。 迷わずに飛び出した。 折りたたみ傘くらい持ってるかもしれないけれど、それでもいい。 握りしめた手には、2本の傘。 10.相合傘 天気予報は晴れだった。 なのに、駅を出てみれば、予想外のどしゃ降り。 蔵馬は静かにため息をついた。 最近の予報は当てにならないと。 ふと、雨を見上げていた視線を正面に戻すと、蔵馬はそこでもっと予想外のものを目にした。 桃色の傘をさして、藍色の傘を手に持って、ナンパされている彼女。 なんでそこにいるんだろう、とか、なんで雨の日にナンパ?とか、 いろんなことが頭をよぎる前に、蔵馬の足は動きだしていた。 雨に濡れるのも構わず、水たまりをうまく避けて、目的地へと足早に進む。 蔵馬に気づいた雪菜が、困ったように視線を向けた。 「人の彼女になにしてるんですか?」 それは、とびきりの笑顔だった。 その後、不運なナンパ男が引き攣った顔でそそくさに去って行ったのは、言うまでもない。 「あ、ありがとうございました…」 「気をつけてね、ホントに。危ないから」 「は、はい…でも、ああいうときってどうしたらいいのかわからなくて…」 「とりあえず、逃げて」 「え…いいんですか?逃げて」 「あんなの相手にすることないから。むしろ氷漬けにしちゃってもいいよ」 「ええっ! そんな、ダメですよ…!」 「冗談」 そう言って笑った蔵馬に、雪菜はほっと胸を撫で下ろした。 「迎えに来てくれたの?」 「はい。雨が降ってたので」 自分の傘を蔵馬にさしかけながら、雪菜はにこりと笑った。 そして、持ってきたもう1本の傘を蔵馬に渡した。 「ありがとう。助かったよ」 「いいえ。天気予報外れちゃいましたね」 「最近当たらないよね。あ、洗濯物大丈夫だった?」 「はい。ちゃんと濡れる前に取り込んでおきました」 「そっか、ありがとう」 そう言ってから、蔵馬は藍色の傘を差そうとして、開きかけてやめてしまった。 雪菜は不思議そうに首を傾げて蔵馬を見上げた。 「どうかしましたか?」 「いや…」 「傘、なにか不具合ありました…?」 「ううん。ないよ」 「…?どうしてささないんですか?」 「いらないかなと思って」 「…………はい?」 「いや、だから、2本もいらないかなと思って」 「…言ってる意味がわかりません」 「1本でいいよね?」 「え…」 そう言って、蔵馬は雪菜が持っていた傘をその手から奪った。 ポカンとしている雪菜に向かって、蔵馬は微笑む。 「相合傘」 「…!」 「赤じゃないのが惜しいね」 そう笑った蔵馬に、雪菜は無性に気恥しくなった。 少し穏やかになった雨のなか、ときどき触れる肩にどきどきしながら帰路を歩いた。 --------------------------------- 蔵雪コンプリートですvv 相合傘はなんとも妄想しやすい設定ですよね!(笑) ときどきいますよね、こういうカップル。傘2本持ってるくせにわざわざ1本しかさしてないっていう。 もう、ホントどんだけらぶらぶなのかと(笑) 最後までお付き合いくださいました皆さま、ありがとうございました! 2007*1005 戻 |