言ってもらうことはあっても、自分から言ったことはなかった。
言いたくて、言えない。

だけど、大切な言葉。





03.想いを重ねて好きと言う





「蔵馬さんとちゃんとデートしてる?」
「えっ、は、はい…電話もよくしてくれますし」
「そっか。いーなー」
「幽助さんとは…?」
「全然ダメ。そもそも時間が合わないのよね、私と幽助じゃ」
「そうなんですか?」
「私は朝から夕方まで大学でしょ?でも幽助は夕方から朝まで屋台だし」
「あ…そうですね…」
「すれ違ってばっかり。こういうとき好きの一言でもあればいいのに、
 そんなフォローするようなヤツじゃないしさぁ…」


うなだれた螢子を見て、雪菜はどう慰めの言葉をかけたらいいのかがわからなかった。
ただでさえ色恋には疎いのに、アドバイスなんてできるわけがない。


「その点蔵馬さんってフォローうまそうよね」
「そうなんでしょうか…?」
「好きとかちゃんと言ってくれるでしょ?」
「それは…はい」
「いーなー。蔵馬さんって雪菜ちゃんのこと大事にしてるもんね」
「…でも、私…蔵馬さんに好きって言ったことないんです…」
「ないの!? 1回も!?」
「はい…だから、蔵馬さんはどう思ってるのかなって…」
「まぁ、蔵馬さんの場合は言わなくても気づいてくれてるとは思うけどねぇ…」


なんせ千年近く生きてるんだし、と螢子は笑った。

想いが伝わっていなかったらどうしようと思っていた雪菜は、螢子の言葉を聞いて安堵した。
けれど、いつも相手に頼ってばかりのような気もして、なんだか申し訳ない。


「言ったら絶対喜ぶと思うよ」
「…!」
「雪菜ちゃんだって、好きって言われて嬉しかったでしょ?」
「…はい」
「じゃぁ、雪菜ちゃんも言ってあげなきゃ」
「で、でも…面と向かって好きだなんて…やっぱり言えません…」


頬を染める雪菜に、螢子は苦笑せざるを得なかった。
まさか雪菜がここまで変わってしまうとは。
微笑ましくもあり、羨ましくもある、そんな気分だった。


「電話は?電話だったら言えるんじゃない?」
「電話…ですか…」
「表情はわかんないんだし、大丈夫よ!」
「は、はい…頑張ってみます…」





大切なのは伝えること。
甘えるだけじゃなくて、ちゃんと言葉にして伝えること。

言わなくてもわかってくれるかもしれないけど、言った方がもっとわかってくれるから。





蔵馬が仕事から帰ってきて、遅めの夕食をとっていると、携帯の着信が鳴った。
彼女にしては遅い時間の着信を不思議に思いながらも、蔵馬は電話に出た。

「もしもし?雪菜ちゃん?」
『こんばんは…! 遅い時間にごめんなさい…今大丈夫ですか?』
「平気だよ。どうかした?」
『あの、私、蔵馬さんにどうしても言いたいことがあって…』
「? なに?」
『えっと…あの、ですね…私……』
「雪菜ちゃん…?」
『…蔵馬さんの、こと…』
「…?」
『…すきです。』
「……え?」
『あの、じゃぁ、遅くにすみませんでした…おやすみなさい!』
「え、雪菜ちゃん!? ちょっ…もしもし?」

呼びかけても反応はなく、切れた電話を蔵馬はただ呆然と見ていた。



すきです



小さな声で紡がれた言葉。
耳を疑うくらいに唐突な言葉だった。


「…こんなの、反則だって…」





だって、だいすき。










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雪菜ちゃんの可愛さに振り回される蔵馬さん(笑)
好きって直接言うのは勇気が要りますし、難しいことですよね。
2007*0908