あなたを好きになってから、どんどん知っていく新しい私。 04.ここから飛び出したい たくさんの人がいるなか、雪菜は壁にもたれてノンアルコールのカクテルを傾けていた。 今日は魔界でパーティーがあるということで、主催者である幽助に誘われて来たのだ。 しかし、たくさんの人に話しかけられて疲れてしまい、早々に喧騒の中から離脱した。 今はただ、一点だけに意識が集中している。 「ねぇー、蔵馬くんってなんで人間界にいるの?」 「あ、それあたしも訊きたかった!なんで?」 「向こうでの生活があるんですよ」 「生活?人間界なんかで?」 「いいところですよ、向こうは。 のんびりしてて」 「じゃぁ、今度遊びに行っていー?」 「え!?いや、それはちょっと…」 「なんでー? …あ!もしかして向こうに女いるの!?」 「えぇー、人間の女と!?やだー、それショック!!」 「…いえ、人間の彼女はいないですよ。もてないんで、俺」 「ウソォ!絶対ウソでしょー?こんなにかっこいいのに!」 「でも彼女いないって聞いて安心した」 「だよねー、人間の女って見る目ないんじゃない?」 苦笑いしている赤髪の彼と、彼を取り囲む女性たち。 雪菜の視線は、知らず知らずのうちにそちらに向いていた。 可愛い女の子が彼に笑いかけて、ときには触れている。 その光景がなぜか雪菜をもやもやさせた。 ただ話しているだけなのに。 湧き上がってくるこの感情はなに? 雪菜は今までに感じたことのない想いに困惑しながらも、やはり目を逸らせないでいた。 「ねぇ? 蔵馬くん今夜暇?」 なかでもとびきり美人な女性がそう話しかけた。 「すみません、俺日帰り組なんで」 「いいじゃない、泊まっていけば」 部屋は取ってあるから、そう言って妖艶な女性は腕を絡めた。 豊満な身体を押し付けて誘惑している。 その姿を見た雪菜は、居た堪れない気持ちになった。 女性に触れられても動揺していない姿は、彼らしいといえば彼らしいが、 それがさらに雪菜をもやもやさせた。 とうとう見ていられなくなって、雪菜は会場から飛び出した。 人のあまりいないバルコニーに出て、一息つく。 しかし、それでもこのもやもやは消えない。 あの光景を見てはっきり思った。 彼が他の女の人といるのは嫌だ、と。 すごく嫌な気持ちになって、その場から飛び出したくなる。 「…なにこれ…」 雪菜は小さくつぶやいた。 好きな人が自分とは別の女の人と話している。 それだけのことなのに。 それだけのことだと思えない自分がいた。 誰かを好きになると初めてのことばかりが起こる。 「どうかした?」 「!蔵馬さん…!」 「会場見たらいなかったから、どうかしたのかと思って」 「いえ…なんでもないです、大丈夫です…!」 「そう?あんまり人気のないところにいると攫われちゃうよ」 「え…?あ、はい!気をつけます…!」 氷女だから、と雪菜は解釈したようだった。 そんな雪菜を見て蔵馬は苦笑したが、あえて訂正するようなことはしなかった。 「蔵馬さんって…」 「ん?」 「…女性に、人気ありますよね」 「そうかな? …1番振り向いてほしい人には振り向いてもらえないんだけどね」 「………好きな人、いるんですか?」 「うん」 「……」 同じもやもやが雪菜の中でまた広がった。 好きな人がいる。 それが誰なのか、知りたいようで知りたくなかった。 ズキズキと心が痛んで、蔵馬の顔を見られなくなった。 今すぐここから消えてしまいたかった。 「結構傍にいるつもりなんだけど、なかなか気づいてもらえなくて」 「…そうなんですか」 「今も、一緒にいるんだけどね」 「…え?」 蔵馬の言葉を聞いて、雪菜は思わずパーティー会場の方を振り返った。 「今日のパーティーにいらしてるんですか…?」 「そういう意味じゃなくて…」 「…?」 雪菜の行動に蔵馬は笑ってしまった。 やっぱり、どうしても気づいてもらえない。 「ごめん、言い方が悪かったね」 「?」 「今、隣にいるよ」 「……え…?」 「俺の左隣」 「……うそ……」 「ホントだよ」 「だって…!」 なかなか自分だと認識しない雪菜に、蔵馬は苦笑した。 「はっきり言った方がいい?」 そう言った瞬間、蔵馬は雪菜を自分の方へと引きよせた。 そして、耳元に唇をよせる。 「好き」 「…!」 「伝わった?」 「……はい」 耳まで真っ赤にした雪菜は、もうどうしていいのかがわからなかった。 嬉しさと恥ずかしさと気まずさと。 さっきとは違う意味で、ここから飛び出したいと雪菜は思った。 「あ、さっきのはちゃんと断ったから安心して?」 「! …気づいてたんですか…!」 「好きな人のことは目で追っちゃうもんだからね」 「…………もぅ、帰りたいです…」 赤く染まった雪菜の白い肌は、当分もとには戻らなかった。 ---------------------------------------------- 「たくさんの人」って使うのにはちょっと抵抗あったんですけど、 「たくさんの妖怪」って書くのもなーと思ってそのままにしました。 「好きな人」はやっぱり「好きな妖怪」とは書けないですしね(笑) この辺がいつも悩むところです(笑) 雪菜ちゃんは自分が蔵馬さんに好かれてるだなんて夢にも思ってないんだろうなと思います。 片思いで精一杯。 だからこそ蔵馬さんは余計にハマるんでしょうね。 …主催である幽助は一度も出て来ず(笑) 出すタイミングがありませんでした(笑) 2007*0915 戻 |