引いてきた一線は、俺なりのケジメで。 越えないと決めたんだ。 04.もう壊れてしまえ 穏やかな午後だった。 今は亡き幻海の寺の縁側で、ゆっくりとお茶を飲みながら、 雪菜が最近あったことを話して、飛影が静かに耳を傾ける。 ふたりが会うときのいつものパターンだった。 「家族が増えたんですよ。 新しい猫ちゃんが来たんです」 「…またか。 どんだけ増やす気だ」 「にぎやかで楽しいですよ」 「にぎやかなのはつぶれ顏だけで十分だろ」 「…つぶれ…?」 「気にするな」 そう言われて、疑問符を浮かべながらも、雪菜は深く訊かないことにした。 「あ、新しい猫ちゃん、黒猫なんですよ。 飛影さんに似てるんです」 「…猫が? 俺に?」 「はい!」 「……勘弁してくれ」 色だけだろ? と飛影は呆れたように言った。 「その子といると飛影さんのことを考えてしまうんです」 「……」 「傍にいてくれるような気がして…」 そう言ってから、雪菜は慌てて飛影を見た。 「あの、別に会えなくて淋しいとか言ってるわけじゃないんですよ…!」 「…わかってる」 「ただ…飛影さんのことでいっぱいになってしまうんです…」 雪菜は一瞬目を伏せて、しかし、すぐに飛影を見た。 「飛影さん、私…飛影さんが…」 「言うな」 「え…」 「それ以上言うな」 「飛影さん…」 「わかってるんだろ? 俺たちは…」 「わかってます! わかってますけど…。 …仕方ないじゃないですか」 もう、止められはしないから。 「…伝えるだけでもダメなんですか?」 「今まで通りにいかなくなる」 「もう十分今まで通りじゃないですよ…」 あなたを好きになったその日から。 雪菜の瞳が揺れた。 涙を堪えるその姿に、飛影の心は揺らぐ。 俺たちは兄妹なんだ。 だから。 …だから? 常識? 倫理? 理性? そんなものは生まれたときから持っていないくせに。 「もう止められません…この想いは」 「雪菜…」 「受け止めてくれなくてもいいです。 …でも、聞いてほしい…」 雪菜は妹だから。 そう一線を引いてきたのに。 だけど、堅く守ってきたその一線はなんなのか。 誰かに取られたくない。 本当はそう思ってるくせに。 もう、いっそ、壊してしまえばいい。 「聞けば俺は、受け止めずにいられなくなる」 「…!」 「俺たちは兄妹なんだ。 それでもいいのか?」 「…はい」 咎める者など誰もいない。 なら、守り続けたくだらない決めごとなど壊れてしまえばいい。 素直に生きてなにが悪い? こうなった方が、もっと雪菜を守れる。 傍にいられる。 「言えよ。 聞いてやる」 「…! はい!」 ふたりを阻む壁など壊し続ければいい。 だから ふたりの絆だけは永遠に壊れない。 -------------------------------------- 最初は珍しくほのぼのだったのに…!(笑) でも、壊さなきゃいけなかったんで(笑) もう、愛し合っちゃえばいいよということで(えー) 母親の分身である雪菜ちゃんと、父親の分身である飛影が想い合うのは当然だろうなと思うのですよね。 ただならぬ愛情をお互い持っているというか。 だからそれが、家族としてなのか恋人としてなのかは、 どっちに転んでもおかしくないと思うんですよ。 ちょっとしたきっかけでどっちにもなりそうですよね。 私は兄妹愛を推してるんですけど、ときどきこういう風に恋愛の形で書きたくなります。 今回の冒頭書いてみて、飛雪のほのぼのの書き方がちょっとわかったような気がしました(笑)(いまさら) 2007*0916 戻 |