「ひとりぼっちなの?」 雪菜はかがみこんでそうつぶやいた。 目の前には小さなダンボールと愛らしい瞳を向けてくるもの。 「…私と同じね」 容赦なく雨が降り出した。 05.弱くてごめんね 雪菜は目の前の子犬に手を伸ばしかけた。 しかし、思いとどまったかのようにその手を止めた。 今優しくしてしまえば、この子犬はもっと淋しい思いをすることになる。 連れて帰ってはやれないのだから。 「ごめんね、うちには猫ちゃんたちがいるから…」 だけど、立ち去れない自分がいる。 放っておけない。 こんな雨のなか、おいていけばどうなるの? 子犬はただ無邪気な瞳で雪菜を見た。 まるでなにも心配していないかのような純真な瞳。 だけど、去ろうとすればきっとその瞳は哀しみに変わるのだろう。 おいていかれる哀しみに。 雨がいっそう激しさを増して、雪菜と子犬を打ちつけた。 この子犬を雨から守る傘すら持っていない自分に、雪菜は無力さを感じた。 たとえ誰かに捨てられたとしても、逞しく生きていくことはできる。 だけど。 「…そんなの淋しいじゃない…」 ひとりぼっちは淋しい。 それを、いちばん理解しているのは自分だ。 雪菜はそっと子犬に触れた。 子犬はピンクの小さな舌で細い指先を舐めた。 甘いと言われてもいい。 ひとりぼっちのこの子犬を自分の境遇と重ねてしまった以上、放っておくなんてことはできない。 雪菜は子犬を抱きかかえた。 雨から守るかのように。 ふと、雨がやんだ。 しかし、耳に届く雨音はやんでなどいなかった。 不思議に思って上を見ると、ビニール傘がさしかけられていた。 「なにしてるんだ」 「飛影さん…!」 雪菜は慌てて立ちあがった。 自分に傘をさしかけているせいで飛影が濡れてしまう。 しかし、そんなことを気にしていない飛影は、ずぶ濡れの雪菜に自分のコートをかけた。 「それは?」 「……」 「…捨て犬か。 甘いな」 「……はい」 雪菜はぎゅっと子犬を抱きしめた。 子犬は嬉しいのか、しっぽを振っている。 そんな雪菜を見て、飛影はため息をついた。 雪菜らしい行動過ぎて、怒る気にもなれない。 「お前のところは飼えないんだろ?」 「…はい」 でも、放っておけなくて、と雪菜はつぶやいた。 「その子犬だっていつまでもひとりってわけじゃないんだ」 「…!」 「飼い主なんてすぐ見つかるさ」 雪菜はその言葉で少し心が軽くなったような気がした。 「…それから、お前もな」 「え……?」 飛影は雪菜の瞳を見ただけで、それ以上なにも言わなかった。 「…行くぞ」 「は、はい…!」 お前も、いつまでもひとりってわけじゃない。 数日後、子犬は桑原の友達が引き取ってくれることになった。 「そういえば、あのビニール傘どうしたんですか?」 「そこら辺にあったのを…借りた」 「……え」 ------------------------------------------- 最後の文はおまけです。飛影が傘を持っていた謎の答え(笑) 書いていくうちにお題が念頭から消えて行ったので、ちょっとお題から遠い話に(笑) やっぱり飛雪はシリアスになりますね(いつも言ってる) 2007*0919 戻 |