綺麗な夕日に照らされたあなたのその影を私は追いかけた。
いつまでも追いかけていたいと思った。





05.夕陽のシルエット





「久しぶり」
「蔵馬さん…!こんにちは」
「買いもの帰り?」
「はい。蔵馬さんはお仕事帰りですか?」
「うん。今日は早く終わってね」

ばったり駅で出くわして、突然のことに雪菜の胸は高鳴った。
スーツ姿の蔵馬は、これから幽助の家へ向かう途中らしかった。

「一緒に行こうか。送るよ」

そう言って、雪菜が答えるよりも早く雪菜の買いもの袋を持って歩き出した。
そんな蔵馬の言動に呆然としていた雪菜だが、我に返って慌ててその後ろ姿を追いかけた。





沈みかける太陽が辺りをオレンジ色に優しく包んでいる。
雪菜は蔵馬の隣を歩く勇気がなくて、一歩後ろを歩いていた。
夕陽で照らされた蔵馬の赤みがかった髪は、いつもよりいっそう綺麗に見えた。

追いかけていたはずの影は、いつのまにか後ろへと伸びていて、
雪菜はなんだかそれを踏んではいけないような気がした。
そんなことをしていると、どんどん蔵馬から離れていく。





照らされた頼もしい背中。

伸びているその影さえもかっこよく見えた。





雪菜がすぐ傍にいないことに気づいた蔵馬が振り返った。

「ごめん、俺歩くの早い?」
「え?いえ、そんなことないですよ…?」

そう答えた雪菜に蔵馬は苦笑した。

「じゃぁ、一緒に歩こうよ」
「…!」

蔵馬が笑いながら手招いた。
雪菜は途惑いながらも、立ち止まっている蔵馬の方へと駆けた。
踏まないようにしていた影を踏み越えて、蔵馬の隣に立つ。


「なんであんな後ろにいたの?」
「え?あ…あの、影が…」
「影…?」

雪菜はそっと後ろを見た。

「あ…重なった…」
「?」

雪菜の言葉が理解できずに、蔵馬は首を傾げた。

「いえ、あの…なんでもないです…!」
「?そう?」
「はい…!すみません…」
「じゃ、行こっか」

綺麗な夕陽に包まれながら、ふたりは一緒に歩きだした。





追いかけていたはずの影と、今、ひとつに重なった。










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恋する乙女思考(笑) 好きな人の隣を歩くのは嬉しいけどどきどきしますよね。
夕陽の中で長くなった影を見ながら歩くのが好きです(私が)(笑)
2007*0918