ただの興味でしかなかった。 なのに、今ではこんなにも大切に思っている。 その存在に一喜一憂している自分がいる。 07.知る事は何よりも辛いもので 母親の腹の中にいるときから知っていた存在。 初めはどうでもよかった。 そいつが死のうが生きようが、そんなことは気にもかけていなかった。 自由に生きて。 闘いを好んで。 情けとは無縁の暮らし。 それが俺だろ? 忌み子というのは残忍で。 国を滅ぼすほどの災厄で。 畏ろしい生きものなのだ、としわくちゃのババアどもが言っていた。 その通りだと思った。 俺は残酷で冷血で無情で。 畏れられている忌み子そのものだと思った。 誰からも好かれない、信頼されない人生は、楽だった。 なにも気にしなくていい。 なにも考えなくていい。 気負うものがなにひとつなくて、楽に生きていけたんだ。 なのに。 気になりだしたあの日から、すべてが変わってしまった。 妹の存在は知っていた。 だけど、そんなのどうでもよくて。 捜しはじめたのは、ただ暇だったから。 飽きたらやめようと思ってたんだ。 でも、気がつけば必死になって捜している自分がいた。 無駄な情報を深追いして、傷を負っている自分がいた。 なぜ? どうして? なにが自分をそうさせるのか。 わからないまま、見つけ出さなければならない使命感に駆られた。 顔も知らない、話したこともないくせに、必死だった。 氷女が喰われたという情報に踊らされたときもあった。 辛い。 と思った。 喰われたということが事実だとしたら、辛い、と。 失ってしまうことが、怖い、と。 想いが募れば募るほど、必死さが増した。 妹が大切なのだと思い知らされて。 自分にも情があるのだと思い知らされて。 こんな想いを知ることがなかったら、俺はもっと自由で気楽に生きられたのに。 辛いことが増えた。 気のおけない日々が増えた。 喜びも、増えた。 妹の存在を大切に思えば思うほど、自分の存在が辛くなってゆく。 不釣り合いな自分の罪に押し潰されそうになる。 会えた喜びと、知った苦しみが天秤にかかったまま、揺れている。 知ることはなによりも辛い。 だけど。 「…さん、飛影さん」 「!」 「大丈夫ですか?」 目を開けると、そこには心配そうに覗きこむ妹の姿。 「起こしてごめんなさい…でも、なんだか苦しそうだったから…」 「……大丈夫だ」 そう言って俺は起き上った。 現実に引き戻された頭はぼーっとしていた。 「なにか悪い夢でも見てたんですか?」 「いや……人生を振り返ってた」 「人生を…?」 「魘されてたわけじゃないから、心配するな」 「そうですか…よかったです」 心底安心したような妹の姿を、素直に愛しいと思った。 「…あ、ということは、私飛影さんの眠りの邪魔を…?」 「そういうことになるな」 「ごめんなさい…! そういうつもりは…!」 自然と口許が緩むのは、大切に思っている証拠。 「…わかってる」 知らなければよかっただなんて思ったことはない。 辛い想いも増えていくけど、でも、それは、今生きているという確かな証拠なんだ。 ------------------------------- ほぼ飛影の独白。 本当は全部独白で終わらせようかと思ったんですけど、それは淋しいので会話も入れました(笑) 生きてるからこそ痛みも喜びも感じることができると思うんですよね。 辛いことってたくさんあるけど、それは、確かに存在している証拠だと思います。 2007*0925 戻 |