なんでもいい。 ただ、大切だよ、好きだよって言ってくれればそれでいいから。 自信がない私を安心させて。 どうしてあなたは私なんかを好きになってくれたの? 08.答えをください 外で会うと、必ずと言っていいほど女性が彼を見ている。 彼はとてもかっこよくて、綺麗で、どんな場所にいたって目立つから。 なのに、そんな彼の隣にいるのは自分で。 自分が、彼女で。 周りの女性に、言外に不釣り合いだと言われているような気がして堪らない。 そんなことは誰よりも自覚している。 だけど、離れられなくて、今も傍にいるのは、誰よりも好きだから。 不釣り合いを知っていても離れられない。 でも、あなたは、どうして傍にいてくれるの? 「雪菜ちゃん?どうかした?」 「…え、あっ、ごめんなさい…!なんでもないです…」 「ぼーっとしてたけど…疲れちゃった?」 「いえ、そういうわけじゃなくて…」 「もう遅いし、そろそろ帰ろうか」 「…!……はい」 せっかくのデートの最中に考えごとしてるだなんて最悪。 気を遣わせて、いつもより早く帰ることになって。 そうさせたのは私なのに、残念に思ってる。 会計を済ませている彼の後ろ姿を見ながら、小さく溜息をついた。 払うのはいつも彼で、出すと言っても聞き入れてはもらえない。 奢られといて、といつも笑うだけ。 私は、奢ってもらうだけの価値はあるのかな。 カフェを出てふたりで歩き出すと、ほら、またたくさんの視線が彼を見てる。 そんな視線を彼は気にしていないのかもしれないけれど、私は気になってしょうがない。 私はなんで隣にいられるのかとか、彼は本当はどう思ってるんだろうとか。 そんなことばかり考えてる。 あなたはどうして傍にいてくれるの? そう訊けない私は、本当に意気地なし。 「連れ回しちゃってごめんね」 「そんなことないです、楽しかったですよ…!」 「でも、疲れてない?」 「大丈夫です!…ただ、ちょっと考えごとしてて…」 「?なにか悩みごと?」 「ちょっと……」 それ以上なにも言わなくなった私に、無理に聞き出そうとしない彼の優しさが痛い。 なにをしていても、彼との違いを思い知る。 好きで好きで、だけど、それだけじゃいられない。 「星」 「…え?」 「綺麗だね」 気づけば、いつも通る人通りの少ない土手に来ていた。 ここではいつも、綺麗な星が見える。 綺麗なものを見ているのに、気持ちが晴れることはなくて。 どうしようもない想いは消えることはない。 感じはじめた負い目は、日々大きくなっていくばかり。 私は綺麗な星から目をそらして、下を向いた。 その瞬間。 気づけば力強く引かれて、彼の腕に閉じ込められていた。 「蔵馬さん…!」 「やっぱり今日、様子変だよね?」 「…!」 「どうしたの?」 無意識に彼の服を握りしめていて。 だから彼は抱きしめたまま離さないでいてくれた。 「…蔵馬さんは…」 「うん?」 「……」 「ゆっくりでいいよ」 「……あの…」 訊いてしまうのが怖くもあって。 だけど、もう訊かずにはいられないのだと思った。 「蔵馬さんは…私のどこが好きなんですか…?」 「え…?」 「………」 「それを、悩んでたの?」 静かに頷いた私に、彼は苦笑を見せた。 「こうやって抱きしめてるのに、好きな気持ちは伝わってないの?」 「だって…!女の子はみんな蔵馬さんを見てるんですよ…」 「…?」 「…自信、ない…です…」 誰もが憧れてる素敵な人。 そんな人の隣に私がいるなんて、今でも信じられないの。 「俺は、雪菜ちゃんしか見えてないんだけどな」 「…!」 「周りとか、そんなのは関係ないよ」 「……」 「俺は雪菜ちゃんが好きだから、こうやって傍にいるんだよ」 彼がそっと私の頬に触れた。 「それじゃ、自信にならないかな?」 「……私で、ホントにいいんですか…?」 「雪菜ちゃん以外考えられない」 「私も…蔵馬さんの傍にいたい…」 力強く、彼が抱きしめた。 どうしてだろう、なんで私がこの温もりを独り占めできるんだろう。 だけど、誰にもこの場所は譲りたくない。 誰よりも 好き 「雪菜ちゃんってホント可愛いよね」 「え…なに言ってるんですか…!そんなこと…」 「知ってる?みんなが見てるのって俺だけじゃないんだよ」 「…え?」 「雪菜ちゃんも見られてるって自覚持ってね?」 「…?誰にですか…?」 首を傾げる私に、彼は笑っただけだった。 そっと彼が頬に手を触れて、目を閉じるタイミングを覚えたばかりの私に口づけを落とした。 「やっぱ今日はうちにおいでよ」 「え…」 「どこが好きか、一晩かけて教えてあげる」 彼が笑ってそう言った。 だけど、私が黙ってうなずくと、なぜだか彼は苦笑に変わった。 「そういうところが好きだよ」 -------------------------------- 甘い蔵雪となりました(わりと毎度) 蔵馬さんは果たして一晩かけて教えたのか。 裏に…続きません(笑) きっと、連れて帰るものの手は出さないんでしょうね。そんな感じが蔵雪です。 街で、あの子可愛くね?とか男性に見られてるのに、その視線にはまったく気づいていない雪菜ちゃんでした。 2007*0928 戻 |