知らなかったらこんな葛藤も苦悩もなかったのに。
ただ好きで、憧れだけを募らせて。

なのに、兄だった、だなんて。





09.巻き戻して、あの頃の淡い恋





「今度百足に行ってもいいですか?」
「…なにしに?」
「飛影さんが働いてるところ見たいです」
「そんなん見てどうするんだ…」
「いつもと違う姿が見れるかなって」
「いつもと変わらん」
「どうしてもダメですか?」
「……百足には来るな。 ロクなヤツがいない」


そう言ったきり、その話は終わってしまった。
大体のことはなんでも聞き入れてくれるのに、百足に行くことだけは許してくれない。
その理由も教えてはくれない。


兄と知った今も、兄と呼べないのは、どこかにまだ少し距離を感じるから。

そして、私がまだ事実を認めようとしていないから。


憧れていたの。 ずっと。
それがいつしか憧れ以上のものになっていった。
それがなんなのかわからなかったけど、でも、きっと信頼以上のものだった。


「お前が好きなところならどこでも連れてってやるから」
「…!」
「それで勘弁しろ」


私にだけ特別優しいのは知ってる。
それはとても嬉しいの。


でも、だからこそ。


好きになってもいいですか?

そう思い始めてたのに。
真実を知って、私の恋はしっかりと自覚する前に摘み取られた。

今は無条件に傍にいられる。
それはとても幸せだけど、実らない想いがあるのだと知った。



兄だと呼べないのは、私がまだ揺れてるから。



知らなければきっと想いを募らせるだけだったのに。

それとも、もっと違う苦しみがあったの? 苦悩があったの?
本当は、今の方が幸せなの?

わからない。
わからないけど、もう離れられはしないから。





「飛影さん」
「なんだ?」
「ずっと傍にいてくれますか?」
「…どうした、いきなり」
「ずっと一緒にいられますか?」


知らないでしょう?
私の想いなんて。


「飛影さんが兄だったらいいなって何度も思ってました」
「……」
「だけど、そうじゃなかったらいいなとも思ってました…」
「…!」


この意味がわかりますか?
伝わりますか?

どうしてかな、私は、あの頃に戻りたいと思ってるの。
傍にいられなかったあの頃なのに。


「俺は……お前の兄だから」
「……」
「それは、変わらない事実だ」
「……」
「だから」


淡い恋はきっと消えない。


「ずっと傍にいる」
「…!」
「それだけは約束する」



私の涙はこれからもずっと、あなたに拭ってほしい。










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なんだかいっぱいいっぱい。 私が。 …笑。
このお題は最後の最後までなに書こうか悩んだものでした…。
淡い恋って言われてもなーと(笑)
どのような経緯で兄だとわかったのかはご想像にお任せします(笑)
ちなみに、飛影が雪菜ちゃんを百足に呼ばないのは、絶対に躯さんにからかわれるからです。
2007*1003