夜の深みがいっそう増した頃。 「…ん…」 雪菜は、小さく身じろぎして目を覚ました。 ぼんやりとする頭で、今自分がどこにいるのかを考える。 視線を少しずらすと、すぐ隣にアルバムの写真を見ている蔵馬の姿があった。 確か、この間みんなで遊びに行ったときに撮った写真が収められている。 いつもは隠されているしっかりと筋肉の付いた彼の身体が、 今は上半身だけ露わになっていた。 「目、覚めた?」 こちらに気づいた彼がそう言葉をかけて、雪菜はやっと今の状況を理解した。 beloved 自分でもみるみる身体が紅潮していくのがわかる。 しかし、今さら隠したところで、彼にバレているのはわかっていた。 シーツを胸元までたくし上げて、蔵馬と並ぶように雪菜も起き上った。 「…おはようございます」 「おはよう」 といってもまだ夜だけどね、そう言いながら、蔵馬は雪菜の頭を撫でた。 事を終えたのは、ついさっきだ。 あまり進んでいない時計の針がそのことを指し示していた。 「ごめん、起こしちゃったかな」 「いえ…眠れなかったんですか?」 「うん。…寝顔見てたいなと思って」 「…! …また、そういうことを…」 「ホントですよ?」 これはカモフラージュです。 そんなことを言いながら、蔵馬は見ていたアルバムをサイドテーブルに置いた。 そして、傍に置いてあったペットボトルのミネラルウォーターを口に含む。 その一連の動作をぼぅっと見ていた雪菜は、蔵馬に向かってぽつりとつぶやいた。 「蔵馬さんもちゃんと気持ちいいですか?」 「!!?」 危うく彼女にミネラルウォーターを盛大に吹きかけるところだった。 軽くむせながら、蔵馬は雪菜の顔をまじまじと見つめた。 「……寝ぼけてる?」 「ちゃんと起きてます」 雪菜の顔は真剣そのものだ。 「…どうしたの、いきなり」 「だって…」 「…?」 「蔵馬さん、いつも…優しくしてくれるから」 彼女が最中のことを話題にするのは初めてのことで、 なんだか聞いている蔵馬も気恥ずかしくなってきた。 もしかして、言外に「気持ちよくない」とダメ出しされてたりして。 雪菜は一度目を伏せて、意を決したように蔵馬に言った。 「この前静流さんと見た映画は、もっと激しかったです…!」 「……」 静流さん、なんの映画見せたんですか。 ポルノ映画? …まさかAVじゃ…。 いやいや、普通の映画でも最近は濃厚なラブシーンとかあるし。 そもそもどんなシチュエーションのシーンを想定して言っているのか。 だいたい激しいって…! 変な状況のものをそれが普通だと認識されても困るし! だから俺が丁寧に………いや、そうじゃなくて。 深夜0時に、蔵馬の頭はフル回転だった。 「男の人は、そういうのが好きなんじゃないんですか?」 「そういうのって……」 どういうの? 「私テクニックなんて持ってないし…」 「いやいやいらないから!」 「ベッドでつまんないと飽きられちゃうって…」 困った。今にも泣きそうだ。 「雪菜ちゃん。そういうのは全部フィクションであって、実際とは違うから…!」 「でも…」 「そういう心配はいりません」 そう言いながら、蔵馬は雪菜の身体を引きよせた。 「そんなことがなくても、俺はあなたを愛する自信がありますよ」 「…蔵馬さん…」 「でも、好きだから…やっぱり触れたいと思うし、こういうこともしたいと思う」 「……」 「つまんないなんて思ったことはないですから、そんなこと言わないでください」 「………ごめんなさい」 「本当は、いつも緊張してるんです」 「…!」 「雪菜ちゃんこそ……満足してますか?」 そう真剣に見つめる蔵馬に、雪菜は黙ってこくりと頷いた。 その仕種に、蔵馬は脱力したかのように、雪菜を抱いたまま枕へと凭れかかった。 「……いったいどんな映画を見たんですか」 ため息交じりに言った蔵馬の問いに、雪菜は内容を事細かに説明しようと、記憶を辿る。 しかし、言葉を紡ごうとした瞬間に、その唇は塞がれた。 軽く触れて一度離す。 一瞬だけ見つめ合って、また塞ぐ。 角度を変えながらさらに深く口づけると、彼女の体温が徐々に上がっていくのがわかる。 唇を解放して顔を覗き込み、蔵馬は苦笑しながら言った。 「…あんまり真に受けちゃだめだよ?」 「……っ……はい…」 肩で息しながらも、律儀に返事をしてくれる姿が可愛い。 そんな姿を見せられて、蔵馬の中に悪戯心が芽生えないはずがなかった。 「それにしても、激しいなんて…そんな言葉が雪菜ちゃんから聞けるとは思わなかったな」 「…! あの…それは…っ」 「そういうのは全部俺が教えてあげますから。心配しないでください」 「そういうつもりでは、なくて…!」 にこりと笑う蔵馬に、どう説明したらいいのか雪菜はわからなくなった。 凭れていた身を起して、困っている雪菜の唇を再び塞いだ。 もっと引きよせて、舌を入れる。 途惑いながらもそれに応えようとする雪菜の舌を絡めとり、深く深く口づけた。 熱い吐息に促されるかのように、蔵馬は雪菜の身体を覆っていたシーツを剥ぎ取った。 白い肌が露わになる。 しかし、いつもの雪のような白さとは違い、今は熱を持って桃色に染まっていた。 既につけられた所有の証が、身体中に散らばっている。 露わになった肢体に、雪菜は恥ずかしさからさらに頬を朱に染めた。 蔵馬が唇を離すと、うっすら涙を浮かべた大きな瞳が、軽い抗議の視線を向けていた。 しかしお構いなしに首筋に顔を埋める。 ぞくり、と身体が震えた。 蔵馬は雪菜の反応を楽しみながら、柔らかな膨らみに触れた。 「……ぁんっ……」 息遣いとともに小さな声が漏れる。 その様子に、蔵馬は耳元で囁いた。 「我慢しなくてもいいですよ」 「…! …っ…、いじわる…です…」 潤んだ瞳が、蔵馬を見上げる。 その言葉とその表情に、もう限界だと蔵馬は思った。 力を失くしてぺたりと座り込んでいた雪菜の身体を、枕へと倒し、その上に乗る。 困ったように眉をよせ、頬を上気させたその姿が、普段よりいっそう色っぽく見えた。 蔵馬の長く綺麗な指が、雪菜の頬に触れ、唇をなぞる。 雪菜は自分に覆いかぶさる蔵馬を見つめ、その名を呼んだ。 蔵馬はそれに応えるように顔を近づけ、耳に唇をよせる。 耳たぶを甘噛みすると、雪菜の身体がぴくりと動いた。 そして、もう一度雪菜の顔を見下ろしてから、蔵馬はそっと囁いた。 「激しいのがお望みですか? お姫様」 その言葉に反論しようとしたが、 塞がれた唇と、はじまった愛撫によって、雪菜は抵抗が出来なくなった。 いつもより意地悪な言葉と意地悪な仕種。 しかし、抱きしめる腕の優しさは、いつもと変わらないものだった。 ------------------------------------- …すみません、にゃんにゃんさせたかったんです。笑。 雪菜ちゃんってなんでも真に受けてしまいそうなので、 ちょっと過激なラブシーンを見て影響されてればいいと思います(笑) 色恋に疎いので、夜はさらに天然が増してそうだなと。蔵馬さんは大変です。 もう完全に氷女の設定無視ですね(^^;) でもきっと蔵馬さんなら、その頭脳をフル活用してうまくやると思います。笑。 2011*1207 戻 〜おまけ〜 「静流さん、困りますよ」 「なに?どうしたの突然」 「雪菜ちゃんに何を見せたんですか」 「何って……どれのこと?」 「………静流さん」 「いや、社会勉強も必要かと思ってね」 「必要ないでしょう…!」 「ん?なに?なんか困ったことでもあった?」 「…そんな楽しそうに言わないでください」 「蔵馬くんってば、ホントは困ってないくせに」 「……はぁ〜、もー……可愛すぎて困ってるんです」 「………そこまで重症とは知らなかったわ」 |