「せっかく人間界にいらしてるのに、いいんですか?」
「…なにが?」
「みなさんにお会いしなくて」


そう尋ねる雪菜に、飛影は「構わん」とだけ素っ気なく答えた。


「でも、私だけお会いしてるのは申し訳ないです」
「……」
「幽助さんや和真さんだって飛影さんとお話したいかもしれませんし」
「それはない」
「そんなことないですよ!」
「…どっからそんな自信が湧くんだ」


呆れながら言う飛影に、雪菜は力強く答えた。


「だって、私は飛影さんにお会いできて嬉しいですから」
「……」
「みなさんもそうだと思います」


にこにこと、よくそんなことが言えるものだと飛影は思った。


「…そういうの、あんまり人前で言うなよ」
「え? なぜですか?」
「……」
「飛影さん?」
「…そう思ってるのはお前だけだ」
「そんなことは…!」
「それに、俺は別にあいつらに会いたいと思ってない」
「…そうなんですか?」


明らかにシュンとした様子の雪菜に、なぜそんな反応をするのかと飛影は疑問に思うばかりだった。


「とにかく、お前が申し訳なく思う必要はない」
「そうなんでしょうか…」
「そうなんだ」
「でも…」
「まだ何かあるのか」
「私だけが飛影さんを独り占めしてる気がして申し訳ないです」
「……」


俺はいったい何者なんだ。
どうやら雪菜の中で存在自体が美化されているらしいことに、飛影は呆れるしかなかった。
仮に雪菜が自分を独り占めしているのだとして、誰がそれを羨ましがるだろうか。
飛影は知り合いの顔を次々と思い浮かべてみたが、
こんな風に考えるのは、どうしたって目の前の少女しかいない。

パトロールの合間を縫って来てるのは、雪菜に会うためだ。
そのために時間を作ってるのに、なぜ他の奴らと会わないといけないんだ。
飛影はそう思いながらも、もちろんそんな素直な言葉が口をついて出るはずもなかった。


「他の奴らに会う理由がない。だからいいんだ」
「でも…」
「会う必要があれば会いに行くし、別にまたの機会でいい」
「…私のせいで会いに行けないということはないですか?」
「ない。余計な心配はいらん」


雪菜が何か言いかけたが、これ以上は不毛なやり取りだと思い、飛影は話題を変えた。


「それより、腹が減った」
「…! そうですね、ごめんなさい。もうお昼の時間ですね」


すぐ用意します、そう言って雪菜は台所へと掛けて行った。
その後ろ姿を見ながら、飛影は思う。
こうやって道場にわざわざ来させて、食事の用意までさせて。
申し訳なく思わなければならないのは自分の方ではないか。

きっと彼女は、自分なんかよりも、もっとあいつらとうまくやっている。
彼女の方がいろんな人と会う時間が多いだろうに。

なのに、こうして、長い時間ふたりで過ごしている。
ふたりだけで、何をするでもなく、他愛もなく時を過ごしている。



だから、どう考えたって、独り占めしてるのは、俺の方だ。







独り占め

2012*0119
title by Honey Lovesong