彼女の幸せ




勢いよく飛び出してきた少女と、危うくぶつかりそうになった。


「雪菜ちゃん!? どうした、そんな急いで」
「幽助さん! ごめんなさい、これから待ち合わせで…!」
「あ、あぁ…“お兄ちゃん”と?」


そう訊くと嬉しそうに笑って頷いた。


「あいつもさぁー、もっと頻繁に会ってやりゃいいのにな」
「そんな…! お忙しいみたいですし申し訳ないです…!」
「そうかぁ? 忙しそうには見えねェーけどな」


だいたい、あんな無愛想のどこがいいわけ?


そう訊くと、彼女は照れもせずに「全部です」と答えた。
他人が言うと恥ずかしいセリフだが、
彼女が言うと妙にしっくりきてしまうから不思議だ。


「私、名前を呼んでもらえるだけで嬉しいんです」


そう笑う彼女がとても幸せそうで、
これ以上引き止めては可哀想だろうと、
振り返り手を振る彼女の姿を見送った。






2008*1001