「へい、らっしゃい…って、あ…。」
「こんばんは。」


にこにこと笑う彼女がいた。






殺し文句






「今日ひとり?」
「はい。 今日はみなさん用事があるので、夕食はバラバラなんです。」
「そっか。 でもなんで俺のラーメン? もっと贅沢すりゃいいのに。」
「だって、ひとりで食べてもおいしくないじゃないですか。」
「そりゃそーだ。 俺も儲かるし一石二鳥だな。」
「聞かせてくださいね、浦飯伝説。」
「ははっ。 あいよっ。」




ラーメン屋台を始めたことに、別に深い意味はない。
ただ、自由気ままなのが向いていると思ったからだ。


ラーメン作って客と他愛ない話で盛り上がる。
最近は常連が増えてなんだか嬉しい。
彼女もその常連のひとりだ。




「俺さ、嬉しいんだよね。」
「なにがですか?」
「雪菜ちゃん熱いの食べるの苦手なのに、それでも食べにきてくれるの。」
「だっておいしいんですもん。」




真顔でそんなこと言うもんだから、面食らってしまった。


だって、それは、殺し文句だ。






2006*1031