無意識の誘惑 「蔵馬さん、今日のご飯なにがいいですか?」 「うーん…あ、そこ本あるから気をつけて…っ!」 「えっ? あっ…!」 テレビの前に座っている蔵馬の傍へ行こうとした雪菜が床に置いてある本に躓いた。 バランスを保つことができずに、そのまま蔵馬の方へと倒れこむ。 蔵馬はとっさのことに雪菜を抱えることしかできず、共に床へと倒れこんだ。 「っ…大丈夫?」 「はい…っ、ごめんなさい…!」 「いや、こっちこそ、あんなとこに本置いててごめんね。」 「いえ。どこか打ってないですか…?」 「平気。」 蔵馬のその言葉に安心したのか、雪菜は蔵馬の上からどこうと思ったが、 引きよせられる力があってできなかった。 自分の背に回されている手のぬくもりを感じながら、雪菜は不思議そうに蔵馬を見た。 「あの…?」 「…いや、なんか見下ろされるのって新鮮だなと思って。」 「そうですか…?」 「いつも見下ろしてるのは俺だからね。」 「…そうかも、しれません。」 少し照れたように雪菜が視線を彷徨わせた。 たぶん、今の状況を変に意識し始めたのだろう。 小さな唇がなにか言葉を紡ごうとして開いては、閉じる。 その仕種が蔵馬の理性を奪うのにそれほど時間はかからなかった。 「誘ってます?」 「えっ…!? ち、違いますよ…!」 照れたような抗議の声に少しも迫力はなかった。 蔵馬は雪菜の頭に手を添えて顔を近づけさせて口づけた。 2006*1112 |