世話のかかるひと




「どこ行ってたんだ?」
「…別に。」
「ずいぶん派手にやられたんだな。」
「やられてない。」
「ふーん…。」
「…武者修行だ。」


からかえばムキに言葉が返ってくる。
それが楽しくて、気づいたらいつもからかって遊んでばかりだ。
強がりで頑固で意地っ張りで、どうしようもない。
本当に、どうしようもない。


「…躯。 ちょっと手貸せ。」
「おいっ…!?」


言った瞬間に倒れた身体を支えると、すでに意識を手放していた。
額から流れる汗と、地に落ちる紅。
じわりと生ぬるい感覚が腕を伝う。


「…まだ無理したな。」


ため息しか出ない。
奥へ運ぼうと抱え直すと、氷泪石が視界で揺れて落ちた。
紐が不自然に切れている。
すぐに理解できた。原因はこれだと。
託されたものを守ったのだ。
託したものの想いと一緒に。


「だからってな、こんなことばっかりしてると、妹が泣くぞ?」


わずかに反応を見せたものの、起きる気配はなかった。
落ちた涙を拾い上げて、その手に握らせてやった。
強く握り締める仕種に、揺るぎない想いを見た気がした。






2006*0909