その声が震えるならば




「…飛影さん…」


そう呼ぶ声が、少し震えていた。


けれど、それは声だけで。
表情はいつもと変わらない。


「…どうした」


そう返すと、何気ないことを話し始めた。
いつも通りの、何気ない会話。
先程の震える声が嘘だったかのように。


だから、気づかないふりをした。


笑ってる顔を無理やり崩すことはしたくない。
話したくないなら無理に聞き出す必要もない。


「雪菜」
「はい?」
「腹が減った」
「…! 夕飯食べて行かれますか?」
「あぁ。そうする」
「じゃぁ、すぐ用意してきますね!」


なにがそんなに嬉しいのだろうか。
笑顔のまま勢いよく台所へと向かう後ろ姿を目で追った。


うまく慰めることも、言葉をかけることも出来ない。


だから。
ただ、今日は傍にいようと思った。






2008*1001