吸い込まれる




隣に座る蔵馬の瞳を雪菜は見上げた。
蔵馬は本に夢中で雪菜の視線に気づかない。
雪菜は吸い込まれるように蔵馬の瞳を見ていた。
綺麗なその瞳を、ただ見つめていたいと思った。


「どうかした?」


気づいた蔵馬が不思議そうに雪菜を見た。
視線がぶつかって、雪菜はさらに目をそらせなくなった。


「…あ、ごめん。 本読んでるだけじゃ退屈?」
「いえ。」
「……?」
「…な、なんでもないです…。」


雪菜の頬がほのかに染まった。
けれど視線はそらせない。
蔵馬が疑問符を浮かべながらも優しく微笑む。
なにも言えないまま、ただ時間が止まった。


その微笑みに、その瞳の優しさに、溶けてしまいそう。






2006*1118