別に約束していたわけではなかった。
示し合わせていたわけでもなかった。

行けばその場にいただけで。
いつの間にか、来るのが当たり前になっていただけで。

ただ、そうなっただけだった。





またここで会えるね





「…見てて飽きないか?」
「え…?」
「つまらんだろう」
「楽しいですよ?」
「…どこが?」

笑って自分を見る雪菜に、飛影は呆れたような顔をした。
ふたりでいると、だいたいいつもこんな感じだ。





亡き幻海の道場で、修業をする飛影と、それをただ見続ける雪菜。
その構図が、いつしか当たり前のようになった。
いつからこうなったのかは覚えていない。
ただ、気づけばこの図が成り立っていた。

いつ来るか、飛影は告げなかった。
いつ待っているか、雪菜も告げはしなかった。

それでも、こうして会えてしまう。
毎週同じ曜日、同じ時間に、必然的に来るようになってしまった。
一言も、約束など交わしはしなかったのに。







以前、ふと疑問をお互いが口にしたことがあった。

「前から訊こうと思ってたんです」
「なんだ?」
「どうしてここで修行なさるんですか?」
「精神統一にはうってつけだからだ」

飛影の答えに、雪菜は心底納得したようになるほどとつぶやいた。

「お前は?」
「え?」
「お前はなんでここに来るんだ?」
「私はお掃除をしに」

雪菜の答えに、飛影はそういえばお前の役目だったなとつぶやいた。


それで妙に納得してしまって、お互いそれ以上訊くことはなかった。
第一、理由なんて些細なことで、初めからあまり気になどしていなかった。
自分が行ったときに、たまたま相手も来ている。
それだけのことだった。







「見てると集中できませんか?」

それならいなくなりますけど、と雪菜は言った。

「…いや」
「じゃぁ、見てますね」
「…どこが楽しいのかが理解できん」
「楽しいですよ」
「……」

雪菜はただにこにこと笑った。



最近飛影は思う。
彼女の思考を理解しようとするのは自分には無理だ、と。
だから、言葉以上の意味は考えないことに決めた。



「ねぇ、飛影さん」
「…なんだ」
「どうして精神統一の修行だけここなんですか?」
「魔界だと邪魔が多い」
「そうなんですか…?」
「静かな場所が少ないからな。その点、ここはいい」
「…じゃぁ、やっぱり私お邪魔じゃないですか?」
「?」
「だって、せっかく邪魔のないところにいらしてるのに…」
「別にお前は邪魔じゃない」
「…!」
「いても気にならん」

飛影の言葉に雪菜は一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうに笑った。





いつからこうなったのかはわからない。

だけど、一緒にいる時間ができて、普通に過ごすことができて、
それを嬉しいのだと感じるようになった。
一緒にいるだけで、楽しいと思うようになった。
傍にいるだけで、落ち着くと考えるようになった。

だから、いつからこうなったのかなんてそんなのはどうでもよくて。
ただ会える日がある、そのことだけが大切な事実だった。



勝手に近づいていく距離に気づかないふりをしながら、今ある時間を大切にしたいと思った。



約束はしない。
なにも告げない。
だけど、会えると信じてる。

自然と向かう足に、逆らうことはしない。





「今日も夕飯食べていかれますか?」
「…言わなくても用意してるんだろ?」
「ふふ、はい」
「もう少ししたら終わるから」
「はい」
「そしたら、食う」
「…はい!」





理由は要らない。
ただお互いがここにいる事実さえあればそれでいい。



そしたらまた、ここで会えるね。










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久々に飛雪短編書きましたが、短いですね(苦笑)
そしていつもどおりな独特な感じに…笑。
どうも飛雪はうまく書けません;;
長編にしないと表現しきれない(といいつつ長編でも表現しきれていないという罠)
飛雪は好きなカップリングですが、形にするのがいちばん難しいです;;
2008*0425