虫酸が走る。 その声も動作もすべて。 「君可愛いねぇ。ひとり?」 「え…?」 「お兄さんたちと遊ぼうよ」 「楽しいよ〜」 「あの…私帰らないと…」 「大丈夫だって」 ひとりが華奢な腕を掴んだ。 「おいでよ」 「困ります…!」 「はは、可愛ー」 無神経な男が肩を抱いた。 その瞬間、小さな身体が震えた。 引かれる手に抵抗しようとするが、力では到底敵うはずもない。 虫酸が走る。 お前らなんかが触れていい相手じゃない。 NOBLE-MINDED 「おい」 「あ? 誰だよテメー」 「今すぐそいつから離れろ」 「なに言ってんだよ、チビが」 「テメーには関係ないだろ?」 なんで自分はこんなにくだらないヤツと対峙しなければならないのだろうと飛影は思った。 相手が人間でなければとっくに殺している。 つくづく人間界は面倒くさいところだと、飛影は今更ながらに呆れた思いがした。 目の前には、くだらない人間と、そいつらに掴まっている雪菜。 そんな雪菜と目が合う。 飛影が来たことで安心したのか、雪菜の身体はもう震えてはいなかった。 それだけが、今の状況の煩わしさの救いだった。 そして、今の雪菜の考えが、飛影には手に取るようにわかった。 恐怖よりも、人間どもの身の安全を心配しているのだろうと。 本当につくづく甘い女だ。 「さっさと消えろ」 「なんだって?」 「チビのくせに粋がってんじゃねぇーよ!」 「…死にたいか」 「!!」 飛影の凍るような視線に、男たちは息を呑んだ。 「ちょ、なんかヤバくね…?」 「もう行こーぜ…!」 そう言って、するりと雪菜から手を離して、男たちは一目散に逃げていった。 これだから頭の悪いヤツは嫌なんだ、そう心の中で飛影は悪態をついた。 「あの…ありがとうございました…!」 「…あぁ」 「私いつも飛影さんに助けられてますね」 「お前は…もっと気をつけろ」 「は、はい…! ごめんなさい…」 とりあえず無事でよかった。 そんな想いを悟られないように飛影は目を反らした。 「こちらにいらしてたんですね」 「…蔵馬に用があった」 「もう帰ってしまわれるんですか?」 「あぁ」 「そうですか…」 雪菜が少し淋しそうな顔をした。 しかし飛影は、わざとそれに気づかないフリをした。 「俺はもう行くから。お前もさっさと帰れ」 「…はい。そうしますね」 夕飯作らなきゃ、雪菜がそうつぶやいた。 その言葉が、雪菜はちゃんと居場所を見つけて、幸せに暮らしているのだということを告げていた。 飛影は、その言葉が聞けただけで十分だと思った。 「次にあんなのに会ったときは氷漬けにしてやれ」 「え…!?」 「…気をつけて帰れ」 そう言い残して、雪菜の返事も待たずに、飛影は姿を消してしまった。 残された雪菜は飛影が駆けていった方向を見つめて、静かに頭を下げた。 いつも助けてくれる。 どんなときでも、どこにいても。 だから、その姿を見た瞬間、片時も離れなかった恐怖が一瞬で吹き飛んだ。 安心と、信頼と。 見え隠れする優しさ。 「…ありがとうございます。飛影さん」 雪菜の言葉は、風に運ばれて消えていった。 人間として生活していればそれなりに安全だろうと思っていたのに、わりとそうでもないらしく。 飛影は自然と溜め息を零した。 もう少し注意しとけ、と周りのヤツに念を押しておこうと思った。 いざとなったら自らが飛んでくる気ではいるが、近くにいない分、周りに頼るしかない。 雪菜が無事家に着くのを見届けながら、飛影はそんなことを考えていた。 気安く触れていい存在なんかじゃない。 あの笑顔を壊すようなことは誰であってもしてはならない。 傷つけるようなことをするヤツは誰であろうと赦さない。 そんなの常識だろ? それを守れないヤツは俺が絶対に赦さない。 --------------------------------------- このときの飛影は、家まで送っていくなんてことはしません。 というか、できません。 それができるようになるのは2,3年後かな(笑) タイトルが難産でした(笑) 2007*1223 戻 |