次に会ったら渡そうと、決めていたから。






愛鍵






「はい、これ。」
「? なんですか…? 鍵…?」
「そう、鍵。」
「どこのですか?」
「ここの。」
「ここの…。 え?」
「だから、俺の部屋の鍵。」
「え、だって…!」
「いつでも来てほしいっていう意味。」
「………ホントに?」
「なんで疑うんですか。」
「いつでも来てもいいんですか?」
「うん。」
「あ、ありがとうございます…っ。」




雪菜は照れたような困ったような顔をして、鍵を握り締めた。
特別すぎる鍵の意味が、雪菜にだって理解できる。




目の前にいる蔵馬を見つめて、真剣につぶやいた。




「…緊張しすぎて使えないかも。」
「使ってよ。」
「が、がんばります…!」
「夕飯作って待っててくれるのが理想なんだけど。」
「えっ! そんな図々しいこと…!」
「俺のが図々しいでしょ、そんなお願い。」




笑ってそう言う蔵馬に、雪菜は困ったような顔をした。




こういう会話は、うまく返せない。
蔵馬もそれがわかっているのか、寧ろその反応が可愛いと思ってさえいた。
どこまでも謙虚な姿勢が好きなんだ。




「使ってくれると、俺は、うれしい。」




蔵馬の言葉に、雪菜は目を見開いた。
蔵馬のまっすぐな言葉が、雪菜の心を温かくする。




合鍵の意味が、わからないわけじゃ、ない。




蔵馬と雪菜の視線が絡まる。
蔵馬が雪菜を引き寄せ包みこむ。
視線の意図を理解した雪菜が目を閉じた。
それが、合図だった。




手に鍵を握り締めたまま、雪菜は蔵馬に身を任せた。




















2006/10/01 拍手掲載
2006/11/25 再掲