close distance






「みやげだ。」
「え?」




そう言って飛影は、雪菜になにかを投げた。
雪菜はそれを、あわてて受け取る。
受け取った雪菜のその手の中には、淡く輝く宝石がちりばめられた髪飾り。
雪菜は思わず感嘆の声をもらした。




「綺麗…! ありがとうございます!」




嬉しそうに笑う雪菜を見て、満足している自分がいることに飛影は気づいた。
思わず苦笑してしまう。
自分は、妹を喜ばせるために四苦八苦している。




「でも、いいんですか? こんな高価なものいただいて…。」
「構わん。 人から譲り受けたものだ。 俺が持っていても、仕方ないだろう?」




手にした瞬間に雪菜を思い浮かべた、などとは口が裂けても言えなかった。




「綺麗な石ですね。 なんて言うんですか?」
「綺瓏石だ。 白銀の七宝のひとつと言われている。」
「…真っ白で、本当に綺麗…。」




雪菜はその石の淡い光に魅せられていた。
強く主張するわけでもなくひっそりと光るそれは、逆にその美しさを引き立てる。




「…俺は、気の利いたことは言えないから。 だから、物で勘弁しろ。」
「?」
「……たまにしか会ってやれん詫びだ。」




小首を傾げた雪菜に、飛影は照れくさそうにそう言った。








パトロールに忙殺される飛影には、雪菜と会う時間を作るのが困難だった。
月に1度、会えるか会えないか。 それほど忙しかった。
でも、それでも、会いたいという雪菜の願いは聞き入れたかったし、
自分もそれを楽しみにしているのも事実だった。




けれど実際、会えたら会えたで、飛影は申し訳なく思うのだった。
自分は、口がうまくない。
面白い話も、気の利いた言葉も、何一つ言えはしない。
いつも、聞き役に回るばかりで。




だから、その詫びが、このみやげなのだと。








言葉の意味を理解した雪菜は、声を立てて笑った。
飛影はあっけにとられてそれを見ていた。
何がおかしいのかと。
ひとしきり笑った雪菜は、困惑している飛影を見上げた。




「私は、兄さんに会えるだけでうれしいんですよ?」




上目づかいにそう言われて、飛影はなんだか負けた気分になった。
そんな風に気を遣うこと自体が間違いなのだと、言外に含まれているようだった。




「…それじゃ、俺の気が治まらないだろうが。」




そう主張する飛影に、雪菜はまた笑った。








少ない逢瀬の中で、少しずつではあるが、しかし確実に距離が縮まっているような気がした。
そう感じるときが一番、やはり兄妹なのだと実感するときでもあった。




すれ違った時間は長かったが、歩み寄る時間は短い。




次にいつ会えるかわからなくても、不安も不満もない。
確かな確信と、安心がある。




確実な居場所が、ここにあるのだ。




















2006/06/24 拍手公開
2006/09/23 再掲