「俺は相応しくない。」


哀しそうにそう言った言葉が、忘れられない。






だから手を伸ばす






「兄さん!」
「…!」




場所なんて構わずに抱きついた。
焦るというよりも、ひたすら驚いているあなたが愛しい。




「…どうしたんだ、いきなり…」
「大好きって伝える一番の方法。」
「……は?」
「言葉よりも簡単ですから。」




抱きしめ返す腕がなくてもいい。
あのときの言葉を撤回してくれなくてもいい。


ただ、伝わればいい。




「俺は…」




ぽつりと零された言葉が、心地よく耳に入っていく。
あのときと同じ声でも、優しさが全然違うと思うのは、気のせいではないはず。




「…こういうのは苦手だ。」




困ったようにそう言いながらも、途惑いがちにおかれた手。
頭を撫でてくれるその大きな手が一番落ち着く。




どれくらい大切に思っているか。
どれくらい愛しいと思っているか。
たくさんたくさん伝わればいい。




あんな言葉はもう言わないで。
もう、言わせないから。




不器用で、言葉の選び方もわからなくて、うまく伝えきれない。
だから、あなたに手を伸ばす。
伸ばさずにはいられないから。




ありふれた言葉も、ありきたりな言葉も、伝わらないのなら
このぬくもりだけは信じてほしい。




言葉よりも簡単で、不器用な私たちにはぴったりの伝え方。






この想いが、ただ、伝わればいい。






だから、手を伸ばす。




















2006/11/05 拍手掲載
2007/03/10 再掲