don't leave me 「秀一、さん?」 「え? あ…」 「こんにちは」 「こんにちは。こんなところで会うとは思いませんでしたよ」 「私もです」 にこにこと微笑む少女に、蔵馬も笑みを返した。 どこにでもいそうな、いまどきの女の子。 しかし、その姿に違和感を感じるのは、初めて会ったときとあまりにも違って見えるからだろうか。 「買い物か何か?」 「はい。秀一さんはお仕事の途中ですか?」 「蔵馬でいいですよ。誰も聞いてないし」 そう言うと、言い慣れていない名前に本当は途惑っていたのか、彼女は少し安心したようにはにかんだ。 「営業の帰りで、これからまた会社に戻るところです」 「和真さんから、お仕事が忙しそうだって聞きました」 「ええ、まぁ…新入社員なんで、覚えることが多くて」 でも、楽しいんですよ、と蔵馬は笑いながら言った。 「そういえば、螢子さんから聞きました?」 「あぁ、旅行の話? 大丈夫です、そこはちゃんと休みを取っておきましたから」 「本当ですか? 楽しみですね!」 目を輝かせながら、嬉しそうに話す彼女の姿に、こちらまで嬉しくなってしまいそうだった。 「あ、ごめんなさい…! お引き止めしてしまって。お仕事の途中なのに…」 「いや、全然。久しぶりに話せてよかったですよ」 「私もです。お会いできて嬉しいです」 にこにこと、そんなことを平気で言えてしまう。 そういうところは変わっていなくて、蔵馬はなんだか安心した。 「じゃぁ、また旅行のときに」 「はい!」 軽く会釈をして去って行く彼女の後ろ姿を、人ごみの中で見失いそうになった。 雑踏に溶け込んでいく彼女が、どんどん遠くなっていく。 彼女がホームステイ先に来たときは、Tシャツにジーンズだった。 それが今や、まるでファッション雑誌から抜け出てきたようなおしゃれな女の子になっていた。 服装も、髪型も、メイクも、彼女の可愛らしさをさらに引き立たせるもので、知らず知らずにどきどきしていた。 まだ幼かったはずの少女が、少し大人びて、知らない表情を見せる。 自分にとっては幼い少女だと思っていたのに、どきりとさせられていたことに気づく。 どこかで保護者的な気分でいたはずなのに、彼女は知らない間に大人になっていた。 変わっていく姿が嬉しくもあり、けれどなんだか淋しくもあった。 これ以上綺麗になってどうするのだろうか。 もう、十分なのに。 親バカだろうが、シスコンだろうが、過保護だろうが、もうこの際構わない。 でも、どうか。 俺を置いていかないでね? 2013/02/15 拍手掲載 2023/10/09 再掲 戻 |