清閑な君へ 上司に急に呼び出されて何事かと思えば。 「ちょっと頼みたいことがあるんだが。」 当の本人はのほほんとくつろいでいた。 俺が嫌な顔をしたのが面白いのか、その顔は晴れ晴れとしている。 「どうせ暇だろ?」 …お前ほどじゃない。 つっこんだところで、コイツに勝てはしないが。 「宝物庫の整理をしてくれないか?」 「宝物庫? そんなもんあったのか。」 「物置みたいなもんだ。 貢ぎ物とか殺したヤツの遺品とか、そんなのが置いてある。」 「で? それをどう整理しろと。」 「簡単さ。 処分してくれ。」 「は?」 「あいにく財宝に興味はなくてな。 宝石を着飾る趣味もない。 なのに物ばかり増えて困ってるんだ。」 「確かに、宝石を愛でるお前は想像できんな。」 「だろ? だから処分しといてくれ。 元盗賊のお前なら詳しいだろうし、気に入ったものがあれば好きにしていい。」 「ああ。 言われなくても報酬代わりにそうするさ。」 面倒なことを押し付けられただけのような気もするが、ちょうどいい気分転換にはなりそうだ。 同じことの繰り返しのようなパトロールにうんざりしていたところだ。 宝物庫に入ると、それはそれは乱雑に物が積まれていた。 他の盗賊が見たら泣くんじゃないかというほどの有様だ。 財宝も、ピンからキリまでそろっている。 伝説と謳われるほどの貴重な物まであったので、その辺は残しておこうと思った。 それまで処分してしまうのは、さすがに忍びない。 いくつか物色しつつ、しばらく宝物庫の整理をしていると、ひときわ目を引くものがあった。 淡く輝く清楚な煌き。 あまり存在を主張しないその光は、ある人物を思い起こさせた。 清閑だが、それが逆に美しさを目立たせる。 その輝きは、白銀の七宝のひとつ、綺瓏石のものだった。 その至高の宝石がちりばめられた髪飾りを手に取る。 頭をよぎる人物はひとりだけだ。 みやげになるだろうか?などと考えている自分がおかしくて笑ってしまう。 俺がこの先もアイツをもてあまし甘やかすのだろうことは知れたことだ。 それは既に自覚している。 これはもう、どうしようもないなと諦めた。 俺が出来る精一杯などこんなことしかなくて。 でも、それでもアイツは笑う。 いいのだと。 清雅で無垢な輝きを放つ髪飾りをその手に、次に会う日はいつだったかと思いを馳せる。 そしてまた、俺は宝物庫の整理にとりかかった。 2006/05/25 拍手公開 2006/09/23 再掲 戻 |