「私決めていることがひとつあるんです。」


少女が紡ぎ出す言葉に、躯は耳を傾けていた。


「私はきっと母と同じことをします。 運命なんかに絶対縛られない。
 だから、そのときは、兄さんのことお願いしますね。」


にこりと笑う少女の姿に、予想していたものを見た気がした。






生命の灯






「アイツをオレに押しつける気か。 お守りなんてごめんだぜ。」
「私はお似合いだと思ってますよ。」
「勝手に決めるなよ。」
「躯さんだからこそ、兄さんを任せられるんです。」




少女は微笑みを絶やすことはなかった。




「アイツをおいていくのか。」
「……。」
「お前が、おいていくのか。」
「…もう、決めたんです。」




伏せた長い睫毛が頬に影を作った。




「私はいつか愛する人の子を生みます。 愛されるために生まれてくる大切な子どもを。」
「子を成さなくても愛し合うことはできる。」
「ダメですよ。 だって私は兄さんみたいな男の子が欲しいんですもの。」
「その兄を、お前は置き去りにするんだぜ。」
「はい。 ですから、躯さんにお願いします、と。」




埒があかない気がした。
一度決めたことは決して曲げないところが、本当によく似ている。




変わらない。
そんな気がした。
だけど、それでも、言わずにはいられなかった。
躯にだって、願いはある。




「よりによってお前がアイツを突き落とすことはないだろう。」
「大丈夫ですよ。 兄さんは、わかってくれます。」
「そんな傲慢な台詞を聞くことになるとは思わなかったな。」
「…そうですね、傲慢かもしれません。」
「アイツがお前をどれほど大切にしているか、知らないわけじゃないだろう?」
「…でも、私は…」
「これ以上アイツになにも失わせるな。」
「!」
「これ以上アイツを苦しめるな。」




躯の言葉に少女は目を見開き、しかしそれでも哀しげに微笑うだけだった。
覆らない意思が、少女の首を縦に振らせることはなかった。




も う 決 め て し ま っ た の 。




愛する人の子どもが欲しい。
愛に満たされた子どもが欲しい。
たとえこの身と引き換えでも。
たとえこの目で見ること叶わなくても。


愛することが素敵だと教えてくれたのはあなたでしょう?






だから私はあなたをおいていく。




















2006/11/05 拍手掲載
2007/03/10 再掲