Selfish 会社の同僚になかば強引に誘われて、飲みに行った。 そして帰路についた頃には時刻はもう23時。 春が近づいているとはいえ、外はまだ寒く、酔っ払いの相手をしたあとのこの身には、 いっそう寒さが感じられた。 ひとり暮らしをしているアパートの階段を上ると、部屋の前に人影が見えた。 「…! 雪菜ちゃん!?」 「おかえりなさい。」 「もしかして、ずっと待ってたんですか!? 連絡くれればすぐ帰ったのに…!」 「携帯、かけたんですけど…つながらなくて。」 彼女の言葉に驚いて、俺は慌てて自分の携帯を見た。 するとそれは見事に電源が切られていた。 そう。 今日は重要な会議があったから、電源を切っていたのだ。 「ごめん…!!」 「くすっ。」 「いつから、ここに…?」 「…ちょっと前からですよ。」 俺は構わず駆け寄って、彼女を抱きしめた。 「身体、冷え切ってるじゃないですか…。 …ごめん、ホント…。」 「…平気です。 寒いのには強いんですよ?」 彼女はそう笑うけれど、本当に体中が冷たくて。 一体どれくらいの間、ここで待っていたのか。 申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 待っている間に彼女は、なにを想っていたのだろう? 「…急に来たら困るかなって思ったんですけど……会いたくなって来ちゃいました。」 その言葉が愛しくて、俺はさらに強く彼女を抱きしめた。 最近なかなか会えなくて、しかもそのほとんどが俺の都合のせいで。 なのに彼女は何も言わない。 なにひとつわがままを言わない。 なにか言ってくれれば、どんなわがままでも叶えようと思っているのに、 わがままを言うことなんてない。 いつでも俺を気遣って、俺に合わせてくれる。 だから、彼女にとって俺は、わがままを言ってまで会いたい相手では ないんじゃないかと思い始めていた。 自惚れているのは俺だけではないかと。 でも、違った。 彼女だって淋しかったんだ。 今日会いに来てくれたことが、彼女に出来る精一杯のわがまま。 そんな彼女が愛しくて愛しくて、俺は回した腕をいつまでも解けないでいた。 解きたくなかった。 「…では、もう帰りますね。」 「えっ!?」 「蔵馬さん、明日も早いんでしょう? それに、終電なくなっちゃいますし。」 「あぁ…そっか、終電か…。 桑原くん、さぞや心配してるでしょうね。」 「ふふ。 さっきから携帯が鳴り止まなくて…」 「でも、ごめん。 離せない…っていうか、離したくない…かも。」 彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、嬉しそうに笑ってくれた。 一度傍においてしまったら、もう手離せなくなってしまうような気がする、 なんて、彼女の笑顔を見ながら思った。 今はまだ、もう少しだけ、俺のわがままを許してくださいね。 2006/06/24 拍手公開 2006/09/23 再掲 戻 |