握り締める力が弱々しくなっていくのをこの身で感じた。
いつか来るかもしれないと知っていながら、
いつになっても来ないことを祈っていた。






終末






「私をおいていくんですか」
「…そんなことは、しない」




では、なぜそんなに言葉が途切れているの。
なぜそんなに呼吸が弱々しいの。




「まだ、なにも、伝えてない…」
「……」
「私の気持ち、なにも…っ」




涙を慰める手すらなかった。
動かないその手が、静かに終末を告げていた。




「…伝わってる。 ちゃんと…」
「……!」
「お前の想いを、俺は知ってる」




そう言って浮かべた微笑が、今までで一番優しいと思った。
伝う涙がすべてあなたへと落ちて、痛いとあなたは苦笑した。




限られた時間が、こんなにもこんなにも、切ない。
静かすぎる時間が、こんなにもこんなにも、苦しい。






いかないで、と叫んだら、なにかが変わったの?
傍にいるよ、って笑ってくれたの?


でも、なにをしても、残酷な現実に絶望するだけ。






おいていくのとおいていかれるの、どちらも同じくらい哀しいのなら、
私も一緒にいきたいよ。






「泣かないでくれ」
「…っ…」
「お前の笑顔が、見たいんだ」






頼りなく吐き出された言葉に笑みを返す私は、
きっと今までで一番とびきりの笑顔だった。
こんな笑顔を見せるのは、あなたの前でだけ。
忘れないで。




出逢えたことが幸せだった。
別たれた運命も、すれ違った過去も、無駄ではなかった。
出逢えたことが、幸せだったの。






「雪が見たい」






呟かれたたった一言の言葉が、耳に残って消えることはなかった。
渾身の力で降らせた雪は、慰めるかのように降り積もっては消えた。




冷えていく周りの温度と、冷えていくあなた。
このまま永遠に時が止まればいいと何度も願った。




今この瞬間を私は決して忘れない。
あなたとの記憶が褪せることは決してない。




いかないで、と叫んだら、なにかが変わったの?
傍にいるよ、って笑ってくれたの?


でも、なにをしても、残酷な現実に絶望するだけ。










世界が反転して、すべてが虚ろに見える。






私が今いる場所は


どこ?








おいていったのは


おいていかれたのは


だれ?




















2006/11/05 拍手掲載
2007/03/10 再掲