「おかえりなさい」

今日、仕事から帰ると、彼女が出迎えてくれた。
とびきりの、笑顔とともに。





Loving You





「どうしたんですか? 急に。 アポなしで来るって珍しいですね」
「え、あの…ごめんなさい」
「なんで謝るんですか。 喜んでるんですよ、俺は」

そう言って笑いかけると、彼女は花が綻ぶように笑った。
彼女の笑顔に何度も救われていることに、最近気がついた。
彼女が笑うと、自分が考えてることなんてちっぽけなことに思えてくる。
そんな、不思議な笑顔。
幸せな、笑顔。


「なんだか、会いたいな、って……」


頬を染めて、彼女がそんなことを言うもんだから、無性に愛しくて。
そんな表情は、正直反則だと思う。



俺を見上げてくるその瞳が、愛らしくて。
その瞳に自分が翻弄されているのが悔しくて。
気づいたら、彼女の唇をふさいでいた。

その行為にまだ慣れていない彼女の身体が、一瞬強張る。
けれど、すぐにそれはほぐれて、俺に身を預けてくれる。
そのとき感じる、俺のことを信頼してくれているのだという安心感がうれしくて。
彼女のことを好きでいいのだと、実感できる。


あまり長いのは可哀想だろうと、唇を離す。
彼女は息を整えながら、潤んだ瞳で俺を見つめた。
そういう上目遣いが俺の理性を吹き飛ばすのだと、そろそろわかってくれないだろうか。
なんて考えても、彼女には届かないのだろうけれど。




彼女の可愛さにいたずら心が芽生えて、そのまま彼女を押し倒してみた。

「…きゃっ…!」

小さな悲鳴とともに彼女の身体が倒れる。
俺の身体の下で頬を紅潮させながら、ただ黙って俺を見つめていた。

最近気づいたことだけど、彼女は反応に乏しい。
屈託なく笑うことは出来ても、他の感情を出すことは苦手なようで、
怒ったり、拗ねたり、甘えたりはあまりしてこない。
だから、多分今も、どう反応したらいいのかわからず、相当困っているのだろう。
そんな姿を可愛いと思う俺は、相当な意地悪。

ごめんね。
でも、可愛いあなたが悪いんですよ。



「ごめん、ごめん。ちょっとやりすぎましたね」

そう言って抱き起こすと、

「…蔵馬さんのいじわる…」

彼女は怒ったような困ったような顔をして、そう言った。
けれど、その手はしっかりと俺の服をつかんでいて。
そこからまた、愛しさが生まれた。



ぎゅっと抱きしめると、俺の背に彼女は頼りなくその腕を回してくれる。
そのことがうれしくて、いとおしくて。
ずっとこうしていたいと、何度も思う。

こうして抱きしめているときが一番、俺と彼女が安らげるとき。
今は、どんな出来事も、この幸せには勝てない。
そんな気さえする。
恋に溺れていく自分も悪くはないなと、彼女のぬくもりを感じながら思う。
彼女もそう思っていてくれればいいのだけれど。


「…蔵馬さん」
「ん?」
「わたし、蔵馬さんに抱きしめられてるときが一番幸せ…」
「…ありがとう。俺もですよ」


素直な言葉を、素直な笑顔で、言ってくれるから。
彼女の言葉はいつも俺を幸せにしてくれる。




いつまでも、この瞬間がふたりにとって幸せで。

いつまでも、笑いあっていけたらいいね。










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蔵馬さんはひとり暮らし中という設定で。
そして、雪菜ちゃんは蔵馬さんから合鍵を持たされてます。
でも、勇気がなくて、あまり合鍵を使えないというのがMY設定(細かい)
蔵雪に関しては、結構細かいMY設定があったりします(笑) それは徐々に書いていけたらいいですね。
雪菜ちゃんが反応に乏しいというのもMY設定のひとつです。 雪菜ちゃんって、実は感情表現が下手そうというか…。
いろんなことに慣れてない感があるかなーと思ってます(勝手に) 甘えたりとか絶対出来なさそう!(断言)
天然で、人が聞いたら恥ずかしいようなセリフを平気で言ったりはしますが(笑)
蔵馬さん視点で書いたのは楽しかったです。蔵馬さんが変な人に見えてなければいいのですが(笑)
2006*0312