傍にいると安らぐ。 そのことに気づいたのはごく最近だ。 少し前までは、なるべく近づかないように、そのことしか考えていなかった。 なのに今では、こんなにも近くにいる。 それが当たり前になっている。 「飛影さん、見てください!」 「……」 「綺麗な虹が出てます」 障子から外を覗きこんで、嬉しそうに雪菜が言った。 さきほどまで降り続いていた土砂降りの雨が、嘘のように止んでいる。 今見えるのは、眩しいくらいの太陽。 そして、青い空にかかる大きな虹。 縁側に出た雪菜が呼ぶので、飛影はそれに従うしかなかった。 雪菜に倣って、縁側に腰掛ける。 見上げると、滅多に見ることが出来ないくらいの大きな虹がそこにあった。 「人間界は素敵ですね」 「……」 「こんなにも綺麗なものが見られるんですから」 「……人間界が好きか」 「はい!」 迷いもなくそう言い切って、雪菜は笑った。 それは、彼女の過去を打ち消すほどの幸せを、ここで手に入れていることの証だった。 人間から受けた傷も、失った時間も、今の彼女を苛めたりはしない。 この世界は、彼女を傷つけてはいない。 それが何よりの救いだった。 雪菜は嬉しそうに大空を見上げている。 飛影はそれを横目で見て、そして自分も空を見上げた。 あたたかい陽射しがふたりを包み込む。 いつからか。 自ら傍に赴きたいと思うようになった。 見守り続けるだけでは、何かが足りないと思うようになった。 彼女の傍にいて、彼女の話を聞きたいと思った。 これが、肉親の情というものなのだろうか。 会わないと気がかりで。 会えないと、会いたいとせがまれる。 それに応えたくて、また会いに行く。 そのくり返し。 たぶん、理由など必要なくて。 彼女が笑ってくれるから、それでいいんだ。 ふと、肩に重みを感じた。 飛影が視線を移すと、まどろむ雪菜の姿。 少しひんやりとする彼女の体温が、心地良いと思うようになったのはいつからだろうか。 そして、以前だったらもっとあたふたしていたであろう自分に飛影は苦笑した。 「…慣れか」 たまにひやりとさせられることもあるが、大体のことには慣れてきた。 初めは遠慮していた雪菜も、次第に甘えてくれるようになってきた。 長い間離れていた距離が、だんだん埋まっていくのがわかる。 護るものがあることで強くなれるということは、友人たちを見て知っている。 そして、自分も今、それを経験している。 そう。 だから。 こんな日常も。 「…悪くないな」 そう思いながら、隣にいる雪菜を起こさないように、飛影も目を閉じた。 |
ゆっくりと目を閉じる
2011*1223
title by Honey Lovesong