3.

妹の所在は未だつかめずにいた。
邪眼でいくら探しても、見つけることが出来ない。
結界か何かに閉じ込められているか、もうすでに死んでいるか…。
後者である可能性の方が高いが、前者であって欲しい。

……俺は何をそんなに必死になっている?
妹とは名ばかりで、顔さえも知らない。
探してどうする。
復讐でもしたいというのか。
それとも、俺にも肉親の情があるというのか?

…どちらにせよ、妹に逢ってみないとわからんのだろうな。
ただ、“妹”が生きる目的になっているのは確かだった。
俺は自分の氷泪石よりも、妹を優先した。
それが事実だ。

妹の情報のためだったら、何だってした。
ガセネタだろうと解っていても、この目で確かめに行った。
八つ手の話が良い例だろう。
あの時は、八つ手の嘘に踊らされただけだった。
まぁ、そのおかげで新たな出逢いもあったのだが。
不覚といえば、奴の前で妹の名前を出したことか…。


「…雪菜」


お前は今、どこにいる?



*



「やぁー、待たせてスマンかったな」

俺は今、霊界に来ている。
俺を散々待たせた挙句、飄々と部屋に入ってきたコエンマに、呼び出されたのだ。
これだから、執行猶予の身は辛い。

「…一体、何の用だ」
「いや、なに、2、3訊きたいことがあってな」
「今更何が知りたい? くだらんことなら帰るぞ」
「まぁ、そう言うな」

その幼い顔つきからは、何もうかがい知ることは出来ない。
しかし、コエンマがわざわざ呼び出したからには、何か意味があるのだろう。
何もないのに呼び出すほど、コイツだって暇じゃない。

「さて、まず1つ目の質問だが、お前が人間界にいる目的は何だ?」
「…何を言うかと思えば…。霊界がそうさせているんだろ。本来ならとっくに魔界に帰っている」
「そうじゃない。三大秘宝を奪う前の話だ。
 お前は魔界じゃ名の知れた妖怪だそうだが、何故人間界へ来た?」
「……」
「そして今も、何かを探しておるな?」
「…わかってるんじゃないか。探しものをしている、それだけだ」
「その探しものが知りたいのだ。お前は一体、何を探しておるのか」
「…貴様に話す義理はない」

コエンマの意図していることが、さっぱりわからん。
何が知りたい?

「…安心しろ。別に盗みをたくらんでるわけじゃない」
「そんな心配はしておらんさ」
「……じゃぁ、何だ」
「…氷女」
「!!」

コエンマがポツリとこぼした言葉に、自分が驚きをあらわにしているのを感じた。
その様子を、コエンマが見逃すはずもなかった。

「…やはりそうか」
「……。…蔵馬か。おしゃべりな野郎だ」
「そう奴を責めるな」



――お前は知っておるか? 飛影が人間界に来た理由を。
――そんなに気になりますか?
――まぁな。あいつには人間界の平和な空気は性に合わんだろう。
――まぁ、そうでしょうね。確かに俺だって気にはなりますが、まだ、
  それを話してもらえるほどの仲ではないですからね。
――そうか。
――…でも、ひとつだけ心当たりがあるとすれば、彼女でしょうね。
――彼女?
――“ユキナ”という氷女です。1年前に会ったとき、彼はその子を探していました。
――…氷女か。氷泪石のために、か?
――さぁ? その辺はよく解りませんが、俺は、氷泪石欲しさではないと思います。
  人道的な理由じゃないでしょうか。



コエンマはしばらく、考えるような、何かを思い出しているような素振りをしていた。

「…俺が氷女を探していたら何だというのだ。貴様に関係ないだろう」
「それが大アリなのだ」
「…どういうことだ」
「…B・B・C(ブラック・ブック・クラブ)を知っておるか?」
「聞いたことはある」
「そいつらの行動は、少々目に余るものがあってな。不穏な動きがないか調査しておったのだ」
「……」
「そしてワシらは、ひとつの情報を手に入れたのだ。
 B・B・Cの連中のひとりがある妖怪を捕らえているとな」
「!」
「もうわかったな? ワシが抱えている事件のひとつに、氷女が関わっておる。
 その件で幽助に指令を出そうと思っている」

思っていなかった展開だった。
B・B・Cなら、氷女が捕らえられる理由もわかる。
嘘ではない。

「教えろ。その氷女はどこにいる?」
「…ふぅ。そう簡単には教えられん。
 お前がその氷女とつながりがあるかもしれんと分かったときに、
 霊界でも大分揉めたのだ。お前にその情報を教えるかどうか…」
「……」
「ひとつは、お前がその氷女と懇意であり、救出した際に人間を殺すのではないか。
 もうひとつは、お前がその氷女に怨みを持っており、救出した際に氷女を殺すのではないか、
 という理由からだ」
「…で? 結局どっちなんだ。教える気はあるのか?
 別に貴様らから教えてもらわなくても、B・B・Cの1人に捕まっているいう情報だけで充分だ」
「誰も教えんとは言っとらん。ただし、条件がある」
「…なんだ」
「お前が探しているという氷女と、お前との関係だ」
「……」
「霊界が心配しているのは前者の理由だ。
 お前と氷女はおそらく懇意だろうと踏んでいる。…蔵馬の意見もあってな」
「……」
「言えんか?」
「………………妹だ」

簡単に口を開いた自分に、少々驚いた。
また相当焦っているらしい。

「…妹? 氷女が妹なのか…? …ということは、お前は…!」
「貴様らが見つけた氷女の名前は解っているのか?
 ここまで引っ張っておいて妹とは違ったなんてことになったら笑い話だぜ」

鼓動が高鳴るのを感じた。
2年間探し続けた妹に、やっと出逢えるかもしれない。

「その氷女がお前の妹である可能性は高いだろうな。氷女がいること事態が特異だ。
 そう何人もいない。それは探していたお前が一番良く解っていると思うが」
「…さっさと名前を言え」
「よかろう。ワシらが見つけた氷女の名は、“雪菜”だ」


当たりだ。















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