誰も理解してくれない
そんな簡単に理解してもらえるとも思わないけど ![]() Scene2:「Can't understand」 「南野くんっ!」 「なに?」 「今日デートしない?」 「…しない」 「えー! なんでー?」 「ほら、受験勉強とかあるし…」 「だって、南野くん大学受けないなら暇でしょ?」 「…知ってるんだ…?」 「有名だよ!みんな意味わかんないって」 「だろうね」 「だから、デートしよっ!」 「だからって…。他にやることあるし…」 「えー!?」 「ごめんね」 「ケチー!!」 女の子の後ろ姿を見送りながら、秀一はため息をついた。 女の子って面倒くさい…。 今までに何度か告白されたことはあるし、モテないことは否定しない。 だからって、それが嬉しいと思ったことは一度もない。 告白されて、断って、あとに残るのは罪悪感だけだ。 手っ取り早く彼女でも作ればいいじゃないかと桑原が言っていたことがあるが、 そんなに簡単ではない。 秀一は再びため息をついた。 「最近ため息多くない?」 後ろから声が聞こえて、秀一は振り返った。 そこにいたのはクラスメートの喜多嶋麻弥だった。 「あの噂、やっぱりホントなんだ…?」 「…みんな知ってるんだね」 「南野くんは有名だもん。すぐに噂になるよ」 「…君も、俺が大学に行かないのはおかしいと思う?」 「おかしいというか…もったいないとは思うよ。それだけ頭いいんだし…」 「大学へ行くことがすべてじゃない」 「それは、そうだけど…。…でも、もうちょっと考えてみたら?」 「……そうだね」 ここでは、大学へ行くことがすべてだ。 そのための名門校。 みんなが大学へ進んでは、と勧めてくる。 教師も友達もみんな、口をそろえてもったいないという。 誰も自分の気持ちをわかってくれない。 秀一の足は、当たり前のように図書館へ進んでいた。 図書館の大きな扉を開け、中に入る。 そこにはいつもと変わらない、静かな空間が広がっていた。 人もまばらで、落ち着きがある。 机と椅子は4ヵ所に分散しており、その周りはすべて本棚だ。 各分野のさまざまな専門書がそろっており、ここで不自由を感じることはない。 絶版になったものや、貴重な古書までそろっているので、まさに本の宝庫といってもいいほどだ。 ここで勉強をする者はほとんどいない。 勉強なら教室か自習室でできるし、図書館は本を読んで 息抜きをするためのところだと考えられているからだ。 だから、本を読んでいる暇なんてないという人や、家でのんびり読みたいという人が多いため、 必然的にこの広い図書館にいる人数は少なくなるのである。 秀一は本棚の間を当てもなく歩いた。 興味のある生物学や工学、化学の本はもうほとんど読んでしまった。 だから最近は、なんとなく文学作品を読むことが多くなっていた。 文学作品を読んでいると、自分が悩んでることなんてちっぽけに思えてくる。 本を選びながら、秀一はこの間ここで会った少女のことを思い出していた。 直接言葉を交わしたのはあの日が初めてだが、 何度か図書館で見かけたことがあるような気がする。 少女のことをいろいろと教えてくれた桑原は、少女と面識があるらしい。 いやに熱弁していたから、実は想い人なのかもしれない。 秀一は手頃な本を手に取って、近くの椅子に座った。 「雪菜〜、今日クレープ食べに行かない?」 「ごめんなさい、人に呼ばれてて…」 「もしかして告白?」 「えっ…!?」 「高嶺の花に声をかける身の程知らずがまだいたとはねー」 「…そんなんじゃないですよ」 「ま、がんばってね」 友達の後ろ姿を見送りながら、雪菜は小さくため息をついた。 呼び出してきたのは、隣のクラスの男の子で、ほとんど面識がない。 そんな人に呼び出される理由なんて、大体想像がつく。 雪菜はうんざりしながら呼び出された場所へ向かった。 「…あの、ごめん。急に呼び出したりなんかして…」 指定場所の中庭には、爽やかなスポーツ会系のような青年がいた。 「俺、3−3の三谷っていうんだけど…」 三谷は落ち着かない様子で、視線をさまよわせていた。 「あの、さ。白鳥さんって彼氏とか、いるの?」 「いないですけど…」 「よかった…」 「……」 一度深呼吸して、三谷は雪菜に視線を合わせた。 「好きなんだ、君のこと」 「…!」 「俺のことなんて、全然知らないだろうけど…好きなんだ」 告白することはすごく勇気がいるのかもしれない。 だけど、お互いのことをよく知らないのに、それでも好きだといえるのが 雪菜には理解できなかった。 「…ごめんなさい」 「白鳥さん…」 三谷の落胆した声が聞こえた。 ----------------------------------- 喜多嶋麻弥ちゃん登場です。 彼女には申し訳ない…です(苦笑) そして、オリキャラ三谷くん登場。 彼は今後も何度か出てきます。 説明ばかりであまり進展がなくてスイマセン…;; 20060*1007 1/戻/3 |