同情なんかじゃない
憐れみでもない ![]() Scene4:「Not sympathy」
「お前の人気ってやっぱすげぇのな」 「え?」 「大学の噂、かなり広がってるから」 「あぁ…」 秀一が就職を決意したとき、かなり早い段階で桑原にはもう話してあった。 桑原も初めは大学進学を勧めてきたが、今では秀一の考えを理解している。 秀一が決めたことに口出しするつもりは、もうなかった。 「この先敵が増えそうでうんざりするよ」 「お前のこと妬んでるヤツ多いしな。教師も全部敵か」 「屈する気はないけどね」 「まぁ、安心しろよ!なにがあっても俺は味方だ」 「…ありがとう」 桑原が友達でホントによかったと、秀一は思った。 彼ほど友達思いな人を秀一は知らない。 桑原は人望も厚く、たくさんの友達がいる。 彼の周りには自然と人が集まってくるのだ。 秀一自身は常に計算で動いてしまうところがある。 損得考えずに行動することがあまりないのだ。 だから、桑原みたいな情熱的なタイプには少し憧れている。 かといって、すぐにそう振る舞えるわけでもないし、 自分は冷静なところが長所なんだと考えるようになっていた。 そんなプラス思考も桑原のおかげなのかもしれない。 今秀一と桑原がいるのは高等部のラウンジで、校内で1番人が集まるところだ。 ここで昼食を食べたり、お茶をしたりと、生徒が休憩するのに最適な場所なのである。 遅くまで生徒が残っていることが多く、いつもにぎやかだ。 「桑原くん、こんなとこにいたのっ!?」 「雪村! どうしたんだよ?」 ラウンジの入り口からかけてきた少女は、桑原と同じクラスの雪村螢子だった。 「文化祭の企画書、書類不備で通らなかったんだけど」 「げ、マジで?」 企画書を広げながら、螢子は桑原の隣に座った。 「南野先輩こんにちは」 「あぁ、久しぶりだね。そっか、もう文化祭のシーズンなんだ」 「はい」 「お前も手伝えよ!3年は自由参加だから暇だろ?」 「え、まぁ、別にいいけど…。で、何やるの?」 桑原の勢いに押されながらも同意した秀一は、企画書を手に取った。 「カフェだよ、普通の」 「でも、衣装で引っかかっちゃって…」 「衣装で?」 螢子の言うとおり、企画書には衣装の欄に再考の判が押してあった。 「やっぱメイド服がまずかったのか?」 「うん…っていうか、丈が短いって」 「はぁ?制服と同じ長さじゃねぇーか」 「見ため的に刺激的だから、スカートはもっと長くしろってさ」 「刺激的って…。露出全然なかったよな?」 「フリルがやばいんじゃないの?」 「マジで?雪菜さんは気に入ってくれてるのに」 「雪菜ちゃんなら何着たって可愛いわよ」 「…なんでそこで雪菜ちゃんが出てくるんだ?」 今まで2人の微妙な会話を黙って聞いていた秀一は思わず口を挟んだ。 中等部の彼女は関係ないような気がするのだが。 「手伝ってもらうんだよ、助っ人として」 「雪菜ちゃんがいれば客寄せにもなるし」 「…メイド服で?」 「別にそんなにヤバくねぇって!つか、お前にもウェイターやってもらうからな」 「え!?」 「客寄せお願いしまーす」 「螢子ちゃんまで何言ってんの…」 この学校の文化祭は、1日目中等部、2日目高等部、 3日目は中高全体で開催されることになっている。 中・高共に3年生は自由参加となっているので、他学年に助っ人として頼まれることが多い。 「そういえば、南野先輩って雪菜ちゃんと知り合いなんですか?」 「知り合いっていうか、図書館で何度かしゃべったことがあるだけなんだけど」 「で、どうでした?」 「どうって…」 「夕飯とか誘ってあげてくださいね。友達としてでいいですから」 「?」 「あの子、ひとり暮らししてて、淋しいみたいだから…」 「え、そうなの?」 「しかも最近沈んでるみたいなんですよ」 「それ、俺も聞いた。なんか、兄貴から半年以上連絡ないんだろ?」 「忙しいから仕方ないって雪菜ちゃんは言ってたけど…」 「お兄さん働いてるの?」 「生活費稼いでんのが兄貴なんだよ。しかも、海外にいるらしい」 「あの子無理するから心配で…」 秀一はただ、今耳にした内容に愕然としていた。 ひとり暮らしで、しかも働き手が兄ということは、両親はいないということだろうか。 半年以上も連絡ができないほど忙しい兄を待ってひとりで過ごす夜は、どれだけ心細いのだろう。 秀一は、『ロミオとジュリエット』が好きだといって笑った彼女のことを思い出していた。 同情なんかじゃない。 憐れみでもない。 そんな簡単な言葉で説明できたら、どんなに楽だろうか。 ----------------------------------------- 飛影は海外で働いているという無茶な設定(笑) 実は、これには理由があるのですが…。 その理由は本編には出てきません(笑) 2006*1020 3/戻/5 |