ずっと待っていたあなたの声に
私の心は満たされるの ![]() Scene6:「Your call,My mind」
秀一が雪菜を連れて入ったのは、イタリアンレストランだった。 お店はそんなに広くはないが、アットホームな雰囲気が魅力的だ。 外装も内装もとても綺麗で、家具も洒落ている。 「マスター、こんばんは」 秀一がそう声をかけると、カウンターの奥にいた男性は気づいたのか微笑をうかべた。 「南野、久しぶりだな。しかも女連れか」 からかうマスターに笑顔で返して、秀一は雪菜をカウンター席に座るように促した。 「マスター、裏メニューよろしく」 「言うと思ったよ。ちょっと待ってろ」 秀一のオーダーを受けて、マスターは奥の方へと消えていった。 その姿を見送ってから、雪菜は口を開いた。 「常連さんなんですか?」 「うん。マスターがよく世話してくれた先輩で、桑原くんとよく来るんだ。 あ、勝手に注文しちゃったけどよかったかな?」 「はい!裏メニューなんてどきどきします」 そう笑う雪菜に、秀一も自然と笑顔になった。 「はい、どうぞ」 マスターが出した裏メニューは、ハヤシ風オムライスだった。 ハヤシソースの香りや、卵のやわらかさ加減がなんともいえない。 「おいしそう…」 雪菜は感激しているのか、目を輝かせた。 「いただきます」 丁寧に両手を合わせてから、雪菜はオムライスを一口食べた。 そのままマスターに視線を移す。 「おいしいです!すごく…!」 「ありがとう」 マスターは微笑んだ。 隣でその様子を見ていた秀一も笑顔を浮かべた。 「文化祭、桑原くんたちのクラス手伝うんだって?」 「はい。カフェって楽しそうですよね」 「衣装が問題みたいだけどね…」 秀一は苦笑した。 「企画書見たんだけど、ウェイトレスの衣装で引っかかってたよ」 「えっ、あの服ダメだったんですか?」 「刺激的、らしい」 「え……」 雪菜は桑原に見せてもらった衣装を思い出してみたが、刺激的な部分など思い当たらなかった。 思わず、どこが?と突っ込みを入れたくなる。 「女の子にはわからないかもしれないけど、メイド服はヤバイと思うよ。いろんな意味で」 雪菜はきょとんと首を傾げた。 やっぱり意味を理解できていないみたいだ。 女の子に男のロマンを理解しろというほうが無理かもしれないが。 「ウェイトレスの衣装は変更しないといけないだろうね。もっと簡素なやつに」 「そうですか…。でも、なんでそんなに詳しいんですか?」 「あぁ…俺も手伝わされることになったんだ」 「じゃぁ、先輩もウェイターやるんですか?」 「…うん、多分…」 「ホントですか?頑張りましょうね、客寄せ!」 「…そうだね」 客寄せの意味がわかっているのかいないのか。 やる気満々な雪菜の姿に、秀一は苦笑した。 オムライスを食べ終わったあとも、秀一と雪菜はいろんな話をした。 去年の文化祭の話や、好きな本の話、最近見た映画の話など、他愛もないことで盛り上がった。 出会って間もない2人には、話しても話しても、話し足りないくらいだった。 秀一と雪菜が帰路についたのは、月が輝き始めた頃だった。 「ごめんね、帰り遅くなって」 「いいえ。楽しかったです!ごちそうさまでした!」 「いえいえ」 そのとき、雪菜の携帯の着信が鳴った。 「!」 兄かもしれない。 雪菜は秀一の顔を伺い見た。 「いいよ、出て」 「ありがとうございますっ…」 雪菜は急いで携帯を手にした。 ディスプレイに映し出された名前は待ち焦がれたもの。 「もしもし…」 『…久しぶり』 電話主の声を聞いて、雪菜の目から自然と涙があふれた。 『連絡遅くなってすまない』 「ううん…」 『…元気か?』 「うん」 『ちゃんとメシ食ってるか?』 「うん」 『体調崩してないか?』 「…平気だよ。兄さんこそちゃんと食べてる?」 『あぁ。心配ない』 「そっか」 『…休暇願い出してはいるんだが、なかなか…』 「忙しいからしかたないよ」 『すまない』 「平気。友達たくさんいるし、大丈夫だよ」 『そうか…。変な男に騙されるなよ』 「ふふっ。そんな心配しなくたって大丈夫だって」 涙があとからあとから溢れて止まらなかった。 けれど、声は自然と震えることはなかった。 『悪い。今からまだ仕事があるんだ』 「…うん。頑張ってね」 『また連絡する。…じゃぁな』 「うん。バイバイ」 雪菜はただ、切れた携帯を見つめた。 兄と会話をしていた時間がとてつもなく短く感じられる。 「…電話、お兄さん?」 秀一がそう聞くと、雪菜は視線を上げた。 「はい」 その顔は笑顔だった。 もう、泣いてはいなかった。 -------------------------------------- ちなみに、マスターは凍矢さんです(そんな裏設定)(笑) 雪菜ちゃんはお兄さんとしゃべるときはタメ語希望で。 お兄さんは裏社会で働いてます(そんな裏設定2) なかなか連絡できないのはそういう理由です。 時間があれば番外で書きたいのですが…無理そうですね(苦笑) ていうか、わざわざそんな設定作らなくてもいいような気が…(笑) ま、いっか。 2006*1103 5/戻/7 |