君の言葉で勇気が出た
何気なく話すその言葉が好きだよ ![]() Scene9:「Your word is my courage」
出逢って間もない頃の会話を思い出していた。 今思えば、それがきっかけだったのかもしれない。 「俺さ、進学しないんだ」 突然俺がそう切り出すと、彼女は驚いたのか俺を見上げた。 「大学には行かない」 「…就職、ですか?」 「うん。…君は、どう思う?」 救いを、求めていただけなのかもしれない。 何度訊いても返ってくるのは同じ答え。 変わらない反応。 わかっていても、どこかで誰かが理解してくれるのを期待してた。 「いいんじゃないですか?自分で決めたことなら」 こともなげにそういう彼女に、俺は面食らった。 「…私、なにか変なこといいました…?」 「いや…、そんな風に言われたの初めてで…ちょっとびっくりした」 「そうですか?」 「…君は、勿体無いとか言わないんだね」 「だって、先輩なら、大学で学ぶことなさそうですもん」 その彼女の言いように、思わず俺は吹き出した。 「なにそれ」 「先輩は、興味のある分野の専門知識ならすでに持ってるんじゃないですか?」 「……!」 「だから、大学に惹かれないんですよね?」 心の中を言い当てられたような気がしたんだ。 「正解なんてどこにもない。…だから、その選択が正しいとは言えなくても、 間違いではないと思います」 「…うん。そうだね」 俺が選ぶ道は、俺だけのものだから。 「ありがとう。自信出た」 君がすくいあげてくれたんだ。 「南野、やっぱり考えは変わらないか」 「…はい。何度訊かれても答えは同じです」 「しかしな…」 「もう決めたことです。自分の人生は自分で決めます」 「南野…」 秀一の言葉に迷いは微塵もなかった。 誰になにを言われても考えは変わらないという固い決意の表れだった。 担任は観念したのか、ため息をついた。 「…わかった。お前がそこまで言うなら…」 「ありがとうございます」 こうして、長い間続いた担任との応酬は、ようやく決着が着いた。 秀一が職員室から出ると、廊下に桑原の姿があった。 「よぉ」 「桑原くん…」 「どうだったよ?面談は」 「一応、就職ってことで理解してもらえたよ」 「マジでっ!?よかったじゃねェーか!」 「うん。ありがとう」 「これで心おきなく文化祭に集中できるな」 笑顔でそう言う桑原に、秀一もつられて笑顔になった。 文化祭が刻々と近づき、話もだいぶ煮詰まってきていた。 最終調整の会議も頻繁に開かれ、盛り上がりを増している。 今日も確認のための会議が行われるので、秀一と桑原は1年6組の教室に向かっていた。 「文化祭のパンフ、見たか?」 「ううん、まだ。もうできたんだ?」 「おぅ。たぶん、明日くらいにみんなに配るんじゃねェーか?」 そう言って桑原は一足先にもらっていたパンフを秀一に渡した。 「合同行事は毎年一緒であんま変わんねェけどな」 「ライブにブラスに告白大会、人気投票、未成年の主張…ホントだ、去年と一緒だね」 「まぁ、盛り上がるからいいっちゃぁいいんだけどよ。 ってか、人気投票は今年もオメェが総ナメだろ?」 「…さぁね」 秀一は苦笑した。 去年、彼氏にしたい人ランキングで1位をとったのはまぁ嬉しいが、 美人な人ランキングで1位をとったのは複雑だった。 じっくりパンフに見入っていた秀一は、1年6組のカフェの紹介文を見て絶句した。 「……桑原くん」 「あ?」 「この紹介文考えたの君?」 「そーだけど…あぁ、イケてんだろ?最後の一文」 桑原はイヤミのない笑顔で笑った。 「…恥ずかしいよ、普通に」 秀一は苦笑するしかなかった。 “王子と白雪姫が笑顔でお出迎え” 「そーいやぁ、今日雪菜さん来れねェーってさ」 「そうなの?」 「なんか、用事あるって」 「……」 「? どーしたんだよ?浮かない顔して」 「…いや、俺さ、避けられてるのかも、と思って…」 「あ?誰に?」 「だから、雪菜ちゃんに…」 「…マジで?考えすぎじゃねェーの?」 「だって、図書館にも来なくなったし…」 ここ最近、秀一が雪菜と図書館で会うことがなくなっていた。 会議で会っても、あまり話さなくなった。 秀一が話をしようと思っても、雪菜によって断ち切られてしまう。 「…なんか、怒らせることしたかな…」 「お前さ……」 「え?」 「……いや、なんでもない」 「?」 「気にしすぎだって、絶対!」 「そうかな…」 教室に着いたとき、桑原は、ドアを開ける前に秀一に背を向けてつぶやいた。 「俺に気ィ遣わなくてもいいからな」 「え…?」 秀一が聞き返したときには、桑原はすでに教室の中へと入ってしまっていた。 気づいていないのは、自分だけかもしれない。 --------------------------------------- 秀一と担任の対決はあっさり終結(笑) 冒頭の内容は本当はもっと丁寧に書きたかったのですが、 すっかり忘れて素っ飛ばして書いていたので(笑)、あんな形になりました…;; 話のもっと早い段階に持っていきたかったのです、本当は…。 修正する気力もなく、ここに…(苦笑) ダメ作者でスイマセン(苦笑) 2006*1120 8/戻/10 |