話しをしたの
彼女と彼と 大切な


Scene12:「talk with her and him」





雨なんて気にならなかった。
あなたとの距離にただどきどきした。

だけど、返事はくれなかった。





「白鳥さん」
「…喜多嶋先輩」
「ちょっと、いいかな?」

衣装合わせがちょうど終わったとき、雪菜は麻弥に呼び止められた。
話の内容は、大体予想がつく。

「話さなきゃいけないなって思ってたの」
「……」
「たぶん、白鳥さんも知りたいことだと思う」
「…はい」
「南野くんはきっと、言わないだろうから」
「…?」


麻弥の言葉で雪菜の心に一瞬にして不安が広がった。
秀一を疑っているわけじゃない。
でも、心がざわつく。


「1年前くらいに噂が立ったの。南野くんと付き合ってるって」
「……」
「もちろん、それは嘘。でも、私が告白したのは本当」
「…!」
驚く雪菜に麻弥は笑顔を見せた。
「私ね、ずっと南野くんのことが好きだったの。小さいときから、ずっと」
「……」
「だけど、友達の関係を壊すのが怖くてずっと言えなかった」










仲が良くて、よく一緒にいたから何度も何度も噂が立った。
初めのうちは否定していても、慣れてくると別にどうでもよくなった。

「ごめんね、南野くん。なんか、噂立っちゃって…」
「喜多嶋が謝ることじゃないよ。それに、ただの噂だし」
「そう、だよね。気にすることないか」
「俺たちの友情は変わらないしね」
「…うん」



傍にいられるだけでよかったのに。
人って欲ばりだね。



「私、南野くんのこと好きだよ」
「…!!」
「…ずっと、好きだったの…」
「喜多嶋…」
「……」
「………ごめん。俺は…そういうふうには見れないよ」
「……うん」
「友達、だから」
「…うん。わかってる」



困っているあなたに、わがままなお願いをした。



「今まで通りの関係でいてほしい…なんて、勝手すぎるかな」
「ううん。俺も、その方がいいよ」
「…ありがとう」










「1年前もはっきりと否定しなかったのは、南野くんが私を気遣ってくれたから。
 それ以外はなにもないの」
「……」
「だから、もう気にしないで」
「喜多嶋先輩…」
「私は平気だし。南野くんはただの友達だから」
「……はい」
「それだけ、言いたかっただけだから」
「…教えてくれて、ありがとうございました」
「いいえ」
にこりと笑う笑顔がまぶしいと雪菜は思った。





いつも、自分のことばかりで。
自分の気持ちに精一杯で。
相手を思いやることができない。

気を遣わせている自分がとても腹立たしい。
人を思いやれなければ、なにも始まらないのに。








「雪菜さぁ〜んっ!衣装どーでした!?」
「ぴったりでしたよ。シンプルなのに、可愛いですよね」
「雪菜さんが、可愛いんですよ!」
「…え?」

桑原が笑顔だったので、とりあえす雪菜も笑っておいた。

「…よかった」
「?」
「雪菜さん、最近元気なかったみたいだから、心配してたんスけど、もう大丈夫そうですね」
「あっ、心配かけてごめんなさい!兄のことならもう…」
「そのことじゃないっスよ」
「え…?」

ふいに、桑原の顔が真剣になった。

「南野のこと、好きなんですか?」
「…!…わかりますか?」
「一段と綺麗になりましたから」
「そんなことないですよ…!」

頬を赤らめる雪菜に、桑原は笑顔を向けた。

「俺も狙ってたんスけどねー」
「え?」
「こっちの話っス」
「…?」
「南野はいいヤツですよ。俺が保障します」
「…はい!」

幸せそうに笑う雪菜の笑顔に、桑原は気持ちを新たにする決心をした。








流れゆくときの中で、やわらいでいく気持ちがある。

だから、思っていたほど辛くはなかった。

相手の幸せを願うことができる自分を誇らしく思うよ。








会う。 会わない。
行く。 行かない。

そんな問答はもうしない。





ついに、文化祭が始まった。















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雪菜ちゃんと麻弥ちゃん・桑原くんのお話。
次からやっとクライマックスです。今回のは前菜的な話(笑)
2006*1126



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