11. 雪菜は久々に白い着物を身に纏い、幻海の道場に来ていた。 道場には、見知らぬ妖怪たちが出入りしている。 現大統領の煙鬼が公言した任期3年の満了を前にして、 第2回魔界統一トーナメントの開催が約半年後に迫っていた。 トーナメントの準備に本格的に取り掛かる前に、現政権の政策のひとつである パトロール隊の実績調査が行われることとなり、調査団が人間界に派遣された。 その調査の拠点として、魔界や霊界とも縁のある幻海の道場が提供されることになったのだった。 ホスト役として、人間界に馴染みのある蔵馬や幽助、陣、死々若丸たちが宛がわれていた。 「雪菜ちゃん、悪ぃな。手伝わせちまって」 「いえ、全然」 「婆さんちのどこに何があるかまでは把握してねェから助かったぜ」 螢子と桑原は受験勉強で来れねぇしな、と幽助は付け足した。 かつてここに暮らしていた雪菜は、陣たちの修行のときも衣食住の世話をしていたこともあり、 幻海の道場のどこに何があるかは大抵把握できていた。 そのため、調査団が来るという話を聞いたとき、手伝いを買って出たのだった。 調査団には、道場や離れの建物は提供するが、 住居となっている本棟には立ち入らせないことにしていた。 幻海の仏壇や遺品があり、部外者には触らせたくはなかったからである。 そのため、雪菜は本棟から必要なものを道場や離れに運んだり、食事の用意をしたりしていた。 見知らぬ妖怪たちがうろつくことになるため、十分注意するよう蔵馬から言われてはいたものの、 大統領府の命で来ている調査団であるため、それなりの礼儀は弁えているし、 こんなところで横暴を働こうとするほど愚かな者達でもないことは雪菜にも理解できた。 今も、道場へ向かう道すがら、すれ違う数人の調査団員たちが、 礼儀正しく会釈をしながら去っていくところだった。 雪菜も会釈を返し、道場への道を進もうとする。 だが、はっと忘れ物があることに気づき、踵を返した。 先ほどすれ違った調査団員達の後ろを歩く格好となり、 歩みを進めるうちに、彼らの会話が耳に入ってきた。 「人間界なんかで調査だなんて、とんだ貧乏クジだぜ」 「百足に帯同させられるよりはマシだろ。躯軍とだなんて、おっかねぇー…!」 かつての雷禅・躯・黄泉の独自国家自体は、トーナメントの際に解散になったものの、 今でもその勢力の名残は残っており、躯軍・黄泉軍などとの呼称がそのまま使われていた。 調査団員の妖怪の一匹が、そういやぁ、と思い出したかのように呟いた。 「やっとあの伝説の盗賊・妖狐蔵馬にお目にかかれると思ったが…あの姿はなんだ?」 「人間の姿にだなんて、成り下がったものだよな」 「だが、あの黄泉様が声を掛けるほどだぜ?変わったのは見た目だけじゃねぇーか?」 雪菜の耳に届く、蔵馬への嘲笑の言葉。 盗み聞きなどよくないと思いつつ、話題が話題なだけに、彼らの話が勝手に耳に入ってくる。 彼をよく知らない者たちの、勝手な噂話。 そんなものに踊らされてはいけない。反論などすれば、少なからず騒ぎになってしまう。 そうなれば、ホスト役を任されている蔵馬たちに迷惑をかけてしまう。 それはわかっている。 「それが、人間と暮らしてるって話だぜ」 「はっ、人間とだなんて…なんと物好きな。 どうせ洗脳でもしていいように使ってるに違いない」 「だよな。人間との暮らしなんて、きっとそのうち見限って裏切るに決まってる」 「あぁ、裏切りが奴の十八番だったな。かつて黄泉様をも裏切ったって話だ」 「なんと、そうだったのか」 「知らないのか? 昔、黄泉様を嵌めたって噂だ」 「冷酷で残酷で、狡猾な化け狐め。人間の姿になって何を企んでいるのやら…」 「囲われている人間は、さぞかし憐れなことだな」 「利用するだけして、使い捨てるに決まってる」 「そんな方じゃないです…!」 ああ、駄目だ。 思わず声が出てしまった。 後ろから聞こえてきた声に、調査団員たちが振り返る。 「…あ?」 「蔵馬さんは、そんな方じゃありません…!」 「お嬢ちゃんには関係ないだろ」 「いいえ、あります……!」 突然声を上げた雪菜に、調査団員たちは訝しげな視線を送る。 それなりに礼儀を弁えた連中と言えど、雑談にまで立ち入られては、 さすがに不満気な態度を隠そうとはしなかった。 「急になんなんだ」 「今話していたこと、撤回してください」 「なんだと?」 「事実じゃないです…! 蔵馬さんはとても親切で優しい方なのに…!」 「蔵馬がなんだって?」 「利用したり、裏切ったりなんかしません。そんなこと、あの人たちに対して絶対にしない…!」 家族を想う心を知っている。優しさを知っている。 だから、どうしても、好き勝手に話す彼らの言葉が許せなかった。 「何も知らないのに、勝手なこと言わないで…!」 「勝手なこと言ってるのはそっちじゃねぇーか! なんなんだ、お前は!」 「おい、お前たち! 何してる」 割って入った声に、雪菜も調査団員たちもそちらの方に視線を向ける。 そこには、白い着物に水色の袴姿の青年が、憮然とした顔で立っていた。 「し、死々若丸…!」 「揉めごとか」 「この嬢ちゃんが絡んできたんだ。俺たちゃ別に…」 「なら、もう構うな。何かあったら、あとあと面倒だぞ」 死々若丸の言葉に、調査団員たちはバツが悪そうな顔し、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。 死々若丸がかつての黄泉軍の上級戦士であることを、彼らは知っていた。 実力も序列も上の者には、不用意には逆らわない。 それが、弱肉強食の魔界に生きる者たちの鉄則であった。 去っていった調査団員たちの後ろ姿を見送って、死々若丸は溜め息をつきながら雪菜を見た。 会話は途中から聞こえていた。 放っておいてもよかったが、修行時に世話になったこともあるし、 何より、見て見ぬふりなどすれば、あとで蔵馬や幽助に 詰め寄られるであろうことは目に見えていた。 そうなれば、面倒極まりない。 「…お前は馬鹿なのか」 呆れたように言う死々若丸に、雪菜はただ俯く。 まるで子どもの喧嘩のようだ。親しいものへの勝手な陰口など、気にしなければよいものを。 だが、そこまで考えて、目の前にいるのはまだ年若い妖怪であったことを、 死々若丸はふと思い出した。 雪菜は着物の裾をぎゅっと握る。 「だって…」 「…?」 「こんなの、悔しい…」 何もわかってないくせに。 彼の想いも優しさも、何も知らないくせに。 何よりも家族を大事にするあたたかい心を知らないくせに。 黙って俯いた雪菜の頭を、死々若丸はぐしゃぐしゃっと撫でて言った。 「もう部屋に戻ってろ」 * 「躾がなってないんじゃないか」 「……は?」 唐突な死々若丸の言葉に、蔵馬は怪訝そうな顔をする。 「雪娘が雑魚相手に食ってかかっていた」 「……!」 「陰口にも耐えられないとは…せめて喧嘩を売る相手を選ぶよう忠告しておくことだな」 「…彼女から喧嘩を売るとは思えないが……」 死々若丸が言う雪娘とは、当然雪菜のことを指している。 雑魚とはおそらく、調査団の下級妖怪だろう。 蔵馬は、死々若丸の話の内容をいまいち噛み砕けずにいた。 例え何か意地の悪い嫌味を言われたくらいでは、雪菜は事を荒立てたりはしないはずだ。 そもそも、調査団がなぜ彼女に陰口を叩くというのだろうか。 初対面のはずだし、衣食住を世話しているだけで、それ以外の接点はない。 彼女が何か気に障るようなことをしたとも思えない。 黙考する蔵馬の思考を読んだかのように、死々若丸は溜息を吐きながら返した。 「雪娘に対してじゃない。お前への陰口だ」 「!」 「いちいち否定しに突っ掛かるとは…存外気が短い」 「……彼女は」 「部屋に返した。危害は加えられていない」 雪菜が無事なことを聞いて、蔵馬はほっと胸を撫でおろす。 気が荒い下級妖怪に食って掛かっていたとしたら、危ない目に遭わないとも限らない。 「…俺のことなんか放っておけばいいのに」 「まったくだ。悪い狐の話など、よく聞く話だ」 死々若丸の皮肉交じりの溜め息に、蔵馬は苦笑を返す。 この世界で生きていれば、悪い噂のひとつやふたつはあるし、 恨み言を言われたり、負け惜しみの嫌味を言われたりするのはよくあることだ。 それにいちいち反応していたら、それこそきりがない。 「…大事な“先生”を悪く言われるのは、雪娘には耐えられなかったようだ」 「…!」 「随分懐かれて…色男はこれだから困るな」 「……そんなんじゃないさ」 それに色男はお前の方だろと蔵馬は苦笑しつつ、死々若丸に頭を下げた。 「ありがとう。彼女を助けてくれて」 * 道場とは離れた区画にある本棟。 その一室に、蔵馬は足を運んだ。 そこは、彼女がここで暮らしていたときの部屋だった。 軽く声を掛けてから、襖を開ける。 振り返った雪菜は、申し訳なさそうな表情で佇んでいた。 「雪菜ちゃん」 「…蔵馬さん……」 「死々若丸から聞いたけど……言い争ったって?」 「……」 「…あなたが?」 「………ごめんなさい…」 死々若丸から話を聞いたときは、俄かに信じ難かった。 あのおっとりとした彼女が、他者と争いごとをするなんて。 だが、彼女の様子を目の当たりにして、事実なのだと理解した。 切なげな顔をしながら、深紅の瞳がこちらを見ていた。 「だって…! 蔵馬さんのこと、悪く言うから……」 「…!」 「違うのに…。あんなの、全然、違う…」 調査団員の言葉を思い出したのか、雪菜は眉根を寄せる。 耐えられなかった。 怒りと悔しさで頭がいっぱいになった。 こんな感情が自分の中にあるなんて。 驚きもしたが、それは、大切なものを自分が持っている証のひとつのように思えた。 大切にすべきものができた。その心を知った。 それを教えてくれたひとりが、目の前の彼だ。 「…悪い狐だって?」 困ったように苦笑を浮かべながら、蔵馬が言った。 雪菜がすかさず反論する。 「蔵馬さんは、悪くなんか…!」 「悪かったんだよ。昔はね」 「…!」 「昔の俺を知る者にとっては、悪い狐の方が正しいんですよ」 「そんなの…。…でも、今は違います…」 「俺が変わったのは、この姿になってからだよ。俺は冷酷で残酷だったんだ」 「……」 「あなたが知らないだけでね」 千年生きてきて、残酷なことをたくさんしてきた。 清廉潔白などという気はさらさらない。 今でも極悪盗賊として名が轟いている。それが自分への評価だ。 だから、純粋な彼女に、こんな風に庇ってもらう資格などないのに。 「……それでも、蔵馬さんが悪く言われるのは耐えられないです」 「……雪菜ちゃん…」 「わたしにとっては、いつだって優しくて親切で、あたたかいのに…」 「……」 「大切な方を悪く言われたのに…怒るのはおかしいですか」 「…!」 泣きそうな瞳で、彼女が訴える。 ああ、なんて若さに溢れた、真っ直ぐな眼差しだろうか。 こちらはもう、悪評など慣れ切っているというのに。 いまさら、他者に何を言われようが、吹聴されようが、些かも気にも留めないのに。 「…はぁ、もう、なんであなたがそんなに泣きそうなんですか」 蔵馬が苦笑しながら、雪菜を見つめる。 大きな瞳に溜まった雫を指で拭うと、それは零れて輝く宝石に変わった。 無垢な彼女にこんな顔をさせるなんて、初めて自分の悪評を呪いたくなる気分になった。 「……よっぽど酷い悪口だったんだね」 「……」 「…がっかりした? こんなこと言われるような先生で」 自嘲気味に笑う蔵馬に、雪菜は首を振る。 「がっかりなんかしないです…! 過去に、してきたことと、今は違います…。 心は、変わっていくはずだから…」 「……」 「今の蔵馬さんは、いつも誰かのために力になってくれる優しい方です…! 不安だったわたしにたくさんのことを教えてくれて、励ましてくれて、 いつもあたたかく接してくれて…。 些細なことにも気づいてくれるし、さりげなくフォローしてくれるし、 なんでも出来て、なんでも知っていて、かっこよくて、優しくて」 「待って待って、雪菜ちゃん。もういいから…」 止まらなくなった雪菜の言葉を、蔵馬は溜まらず遮った。 遮られた雪菜は、ぽかんと蔵馬を見上げる。 「…なんていうか、それ照れる…」 「え……?」 「そんなに褒められると…照れるから」 「え…あ……ごめんなさい……」 「いや…謝らなくてもいいんだけど…」 こんなに必死に庇おうとしてくれる雪菜に、 蔵馬はなんだか恥ずかしいようなくすぐったいような心地がして、 思わずふふっと笑ってしまった。 笑い出した蔵馬に、雪菜は怪訝そうな顔をする。 蔵馬は笑みをたたえたまま、大きな深紅の瞳を覗き込んだ。 「あなたが今の俺を知っててくれている。それで十分ですよ」 「……」 「ありがとう」 「…!」 「こんなに可愛い子に庇ってもらえるほどには、善い狐になれたのかな」 でも、と、蔵馬は雪菜に諭すように言った。 「こういうことは、もうしないでください」 「……ごめんなさい…」 「俺の悪口に反論してたら、きりがないですよ」 「……でも…」 「俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、 こんなことしてたら、あなたが危険な目に遭ってしまうよ」 心配だから、そう言われて、雪菜はただ頷くしかなかった。 「頑固なほど芯が強くて、思いやりと慈愛に満ちている」 「え…?」 「やっぱり、俺が思っていたとおりだったね」 「…!」 ――世間知らずで意外と向こう見ずで、ときに頑固なほど芯が強くて、 とても思いやりと慈愛に満ちている。 いつかの雪の日に、蔵馬が話した雪菜の印象。 その印象が間違っていなかったことを、蔵馬は改めて実感した気がした。 あの雪の日も、話をしたのはこの幻海の道場だった。 あのとき、初めてなにかに赦された気がして涙を零したことを、雪菜は思い出した。 あのときから。 いや、そのずっと前から。 見守って、傍にいて、いつも助けてくれる。 冷酷で残酷だなんて嘘だ。 少なくとも、自分にとっては。 * 「ということがあったんですよ」 「………なぜいちいち俺に報告する」 「自慢したくて」 にこにこと微笑む目の前の狐に、飛影は辟易した表情を浮かべる。 妹との自慢話をするために、わざわざ魔界まで来るなどどうかしている。 「庇ってくれる姿が健気でめちゃくちゃ可愛くて困りましたよ」 「……」 「頑固さはあなたといい勝負ですよね」 「……うるさいな」 親しい人を悪く言われた。 そのことが、雪菜にとっては到底許せることではなかったのだろう。 感情を凍てつかせることを覚えた彼女が、珍しく怒りを露わにした。 それは、喜ぶべきことなのだろうと飛影は思う。 感情の抑圧とは無縁となり、心が育まれている何よりの証に思えた。 「……本当に、真っ直ぐで優しくて強い子ですよ」 目を細める蔵馬に、飛影は視線を向ける。 いつの間にか蔵馬と雪菜の親密度が増していたことには、少なからず驚いていた。 だが、面倒見の良い蔵馬が、人間界で生きていこうとする雪菜を 放ってはおけなかっただろうことは容易に想像がつく。 極悪非道とまで言われた彼が、人間と生きていくことへの途惑いを 覚えなかったはずなどないのだから。 「…そんなにあいつを気にかけて、情でも湧いたか」 そこがお前の甘いとこだな、と飛影は冷ややかな視線を送る。 最初は、ただの親切心と、戦友への揶揄いと興味本位で近づいたのだろうが、 今ではすっかり情が芽生えているように見えた。 飛影の言葉に、蔵馬はわかってないなとでも言うように、溜め息をつきながら返した。 「情だなんて……もうそんなものじゃないですよ。 雪菜ちゃんは、俺にとってはもう大事な存在のひとつです」 「………」 「仲間のひとりですよ」 「………そうか」 「あなたこそ、いいんですか。本当にこのままで」 蔵馬は飛影の首元に視線を移す。 首に掛かった2本の組紐。 その先端はタンクトップの中に隠れていて見えないが、 2粒の至高の宝石があるだろうことは、見えなくても分かった。 「形見の氷泪石…ですよね」 「…!」 「雪菜ちゃんから聞きました。あなたに託したと」 「………あいつもお喋りだな」 「まだ言わないんですか」 蔵馬の問いに、本当はこっちが本題かと理解する。 飛影は、何度も繰り返してきた言葉を返した。 「……言う必要ない」 「ですが…」 「何度訊かれても同じことだ。名乗るつもりはない」 「…なぜですか。彼女は兄を必要としているのに」 「……もし、あいつが孤独だと泣くのなら、そのときは迎えに行く」 独りだと言うのなら。そのときは傍にいる。 けれど。 「今は、そのときじゃない」 頼れる存在を妹はもう見つけている。 居場所がある。自分が傍にいる必要はない。 兄というものが彼女を縛る必要などない。 飛影の返答に、蔵馬はしばらく沈黙してから言葉を返した。 「……勝手ですね」 「………ふん。だからこそ、傍にいない方がいいんだ」 自分勝手だと分かっているから。 いくら善処してみたところで、身勝手な自分が無神経に妹を傷つけるだろうことは目に見えている。 だから、妹が傷つかない道を選びたい。 「いくら諭しても無駄だ。俺が丸くなるには、お前と同じくらい時間が掛かる」 「………それは、千年掛かるということですか」 呆れた顔をする蔵馬に、飛影はふっと笑う。 「…お前のような奴らに囲まれて、あいつはそれで充分さ」 兄という幻想など必要ない。 それは、あいつももう気づいている。 飛影の言葉と表情に、ああやはり、今は何を言っても無駄なのだと、蔵馬は理解した。 雪菜の傍にいて支えてくれる者がいれば、それはきっと兄でなくてもよいのだろう。 優しさとあたたかさで彼女が包まれているなら、それが何者でも構わないのかもしれない。 だが、それでも。 それが兄であればいいのにと思ってしまう。 異端だと哀しげに笑う彼女に、本当に救いを差し伸べられるのは 彼しかいないのではないかと思うのだ。 これは、勝手な願いなのかもしれない。 でも、彼女の想いが救われてほしいと思ってしまうのだ。 あの子が心から救われるその日があってほしいと。 「本当に、いいんですか」 「……」 「あんなに可愛いのに」 「………それは関係ないだろ」 「わかってますか? 放っておくと変な虫が付きますよ」 「…!」 「そのうち桑原くんと…なんてことになったらどうするんですか?」 「……………」 しばらくの沈黙の後、飛影は切実な声を上げた。 「…それは全力で阻止してくれ」 10/戻/第2章 |